第7話 ヒーローインタビュー
大志の前には報道部一年の戸成晴香がちょっと気取った感じで、ペンを片手にやる気を見せていた。
「では、打った感想をどうぞ」
意外とオーソドックスで何の切り込み感も無い質問だった。
「ああ、ええと、気持ち良かったです」
「どういった所が良かったと思いますか?」
「ええと、バットがボールに当たったところです」
そして質問に対する大志のコメントをノートに書いてゆく。
「じゃあ、どんな事を考えて打席に立たれましたか?」
ん? なんかこれって野球が終わったときのヒーローインタビューみたいだな……。
何だか型に嵌った様な質問に、そう思いながらも大志は当たり障りなく応える。
「できるだけ平常心を心掛けました」
「なるほど、落ち着いて打席に立ったのが良かったんですね」
「そういう事です」
何だかこの子、インタビュアーの真似事をしているだけだな。
テレビで放送されているそれっぽいのをやってみて、その気になっている。
機嫌よくメモを取る晴香を観察しながら、ちょっとだけ可笑しくなってきた。
その後も戸成晴香は色々と訊いてきたが、どれも型に嵌ったどこかで聞いた様な質問ばかりだった。
大志はそれらすべてに、当たり障りのない、そう誰もが応えそうな返答をした。
晴香はいかにも記者っぽく、それらをメモに取っていく。
「今後の抱負をお聞かせください」
そう訊かれて、これが最後の質問だなとほっとした。
「今後もチームに貢献できるよう頑張りたいです」
「そうですか、今日はお忙しいところありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました」
そして最後までメモを取り終えると、さっさと片付け始めた。
仕事ができる雰囲気を漂わせているみたいで、その辺りも可笑しかった。
「丸井先輩ありがとうございました」
「いえ、お安い御用です」
カメラをまた首から提げて鞄を肩にかけると、晴香はちょっと可愛い笑顔を大志に見せた。
「じゃあ次のインタビューは本番の球技大会の後に」
そういい残してそそくさと教室を出て行こうとした。
「ちょっと待った」
大志は最後に晴香が口にした言葉に耳を疑った。
晴香は面倒くさそうな顔で振り返った。
「何ですか? 忙しいんですけど」
感じの悪い一年生だなと思いつつ質問をぶつけてみた。
「今なんか次があるとか言わなかった?」
「言いましたけど、それが何か?」
晴香は早く出て行きたいという雰囲気を露骨に出している。
「いや、今度は打てるか分からないし。記事にして面白いかとか期待しない方が……」
大志が話している途中、なんだか不機嫌な感じで晴香は口を挟んだ。
「面白いか面白くないかは私が決めます。素人は口出ししないでください!」
そう一喝されてから大志は思った。面白いか面白くないか決めるのは記事を読んだ人じゃないのかな。
「言い忘れてましたけど、先輩を追っかけ取材して載せますんでよろしく」
最初に言うべき事を取って付けた様に伝えた後、さっさと晴香は教室を出て行った。
教室に残された大志は、えらいのに目を付けられたと暗い気持ちになったのだった。