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加速する世界の入り口で  作者: ひなたひより
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第50話 抑えられない本心

 今日の大志は朝から何となくもやもやした気分だった。

 昨日の幸枝の深刻そうな顔を見てしまってからずっとだった。

 昼食後に弁当を片付けてすぐに瀬尾の席に行く。


「瀬尾、ちょっといいか?」


 声を掛けられた瀬尾は、大志の要件を分かっているかのようにすぐに席を立った。

 そして二人はそのまま連れ立って教室を出て行った。



 校舎裏で大志は目を合わそうとしない瀬尾に向き合っていた。


「ゆきちゃんから聞いたよ……」

「ああ、昨日の事だよな」

「ちょっと話さないか。ゆきちゃんもだけど、お前もなんだかしんどそうだよな」


 大志がベンチに腰かけると瀬尾も隣に座った。


「喧嘩することもあるだろうし、二人の事に俺が首を突っ込むのも何なんだけどさ……」


 大志は瀬尾の顔色を見ながら話を続ける。


「辛そうだったんだ。昨日のゆきちゃん……」

「そうか……」

「お前きっと変に誤解してるよ。ちゃんとお互い話をした方がいい」

「話をしようにも一緒に帰ってもくれないし、どうしろって言うんだ?」


 瀬尾はかなりその事を引きずっているみたいで、珍しく人に当たる様な感じだった。


「二人が一緒に帰れないのは俺のせいなんだ。俺と戸成が始めた事にゆきちゃんを巻き込んでしまったから」


 大志は能力の事に触れないように気をつけながら、できるだけ正直に瀬尾に話した。


「実は少し前から後藤の転落事件と山崎の亡くなった交通事故を調べるのをゆきちゃんに手伝ってもらってた。そのせいで少しややこしい事になってしまったんだ」

「ややこしい事って?」

「あまり言いたくないけど、ゆきちゃんは一度階段から落ちかけてるんだ。突き飛ばされたか足を踏み外しただけかは分からないが、危うく大怪我になるところだった」


 瀬尾は意外過ぎる大志の話に唖然としていた。当然の反応だった。


「その時は助けることが出来て怪我はなかったんだけど、もし事件を起こした犯人がいるとしたら、またこういうことが起こりかねないと思って、出来るだけ三人でくっついていたんだ」

「本当なのか、そんなことがあったなんて……」

「これ以上誰かを巻き込みたくなくてずっと黙ってたんだ。だからゆきちゃんを責めないでやってくれないか」

「そうか……それで、誘ってもなんとなくいつも断られてたのか」

「すまない。俺のせいだ。謝るよ」


 瀬尾はベンチに座ったまま頭を抱えた。


「そんな事情があったのに俺はよく話を聞きもせずに多田さんにあんな態度を取って……最低だ……」


 瀬尾は唇をきつく結んで苦し気に下を向いた。


「馬鹿だった。愛想をつかされてもおかしくない……」

「なあ瀬尾、落ち込む暇があるんならゆきちゃんときちんと話をしろよ」

「あんなひどい態度をとってどんな顔して話せるって言うんだ……」


 大志はその一言を聞いて何故だか無性に腹が立った。

 本当は幸枝のために穏やかに話をするつもりだったのに……。

 大志はうつむく瀬尾の胸ぐらを掴んだ。


「おまえがどんな顔をするかなんてどうだっていい! 真っ先にゆきちゃんの事を考えろよ!」

「丸井……」

「ゆきちゃんを泣かすやつは俺が許さない。もし話をしないって言うんならこの場でぶん殴る!」


 いつも大人しい穏やかな大志が感情をむき出しにしている事に、瀬尾は戸惑いを見せた。

 大志は大きく息を吐くと、ゆっくりと胸ぐらを掴んでいた手を放した。


「ごめん。俺が原因だってのにカッとなって、でもお願いだからゆきちゃんと話してくれ。このとおりだ」


 大志は瀬尾に深く頭を下げた。


「丸井……おまえひょっとして……」


 瀬尾は大志の見せた必死な姿に何かを言おうとしたが、その言葉を吞み込んだのだった。



 休憩時間、大志が給水機で水を飲んでいると、いつの間にか市川が後ろに立っていた。


「わっ、びっくりした。全然気付かなかった」


 市川は微妙な笑みを浮かべている。


「ご、ごめん。び、びっくりさせちゃったね」


 大志は市川に場所を譲る。


「お、俺はいいんだ。き、君に話があってさ」


 市川はポケットから紙を出す。


「こ、これを見てよ」


 今朝の新聞の切り抜きだった。


「これは?」

「き、君に言われて、さ、早速やってみたんだ」


 大志は市川が手にしていた切り抜きに目を通した。

 そこには一件の交通事故が載っていた。


「車とバイク事故のだね。えーと、交差点で出会いがしらにバイクの運転者が数メートル飛ばされたが奇跡的に怪我はなく無事だった……」


 大志は記事を読み終えて笑顔を見せた。


「すごいじゃないか。よくやったな」

「た、大したことないよ。た、たまたまなんだ」


 市川は褒められて照れ笑いを浮かべた。


「俺もこんなふうにがんばってみようかな」


 大志は市川が前向きになってくれたのを心から歓迎した。


「大ちゃん」


 声をかけてきたのは幸枝だった。


「あ……」


 背中を向けていた市川に気付いた幸枝の顔に緊張が走る。


「じゃあ……」


 市川は短く言って幸枝とすれ違う様に教室に戻って行った。


「ゆきちゃん、そんなに硬くならなくても大丈夫だよ。あいつ心を入れ替えたみたいなんだ」


 幸枝は少し顔色が悪い。


「なんだよ? どうしたんだい」

「今すれ違った時……」


 幸枝は少し震えていた。


「私の事一瞬見たの……すごく冷たい目をしてた……」

「あんまし気にすることないよ。きっと女子に慣れてないだけだよ。それよりどうしたんだい?」

「え、うん。ちょっとお礼言いに来た」

「え? なんの?」

「とぼけないでよ。瀬尾君と話してくれたんでしょ。さっきすごい勢いで昨日はごめんって謝られたんだ」

「そうか、あいつ……じゃあ仲直りできたんだね」

「大ちゃんのお陰だよ。ありがと」

「俺は大したことしてないよ。まあ仲良くやりなよ」

「うん。そうする」


 大志は教室に戻って行く幸枝の後ろ姿を見送る。


 また少し君が遠くなってしまったような気がする……。


 大志はそんな事を思いながら、明るい笑顔を残していった幸枝にほっとしたのだった。

 

 

 それから市川は翌日も、またその次の日も大志の元へ来ては、自分たちの能力をどうやって人の役に立てようとか、そんな相談をしに来るようになった。

 加速能力者を止める手立てのない以上、市川が能力を自制していることに大志はほっとしていた。

 一方的ではあったが市川は大志に強い仲間意識を持っている。自分が市川を導いてやれば何もかも上手くいく。大志はそう思っていた。

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