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加速する世界の入り口で  作者: ひなたひより
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第38話 あり得ない映像

 大志と幸枝は例の廃部になった部室で、またインスタントコーヒーを飲んでいた。

 晴香は報道部分室と言うネーミングが気に入ったみたいで、勝手にそう呼び始めていた。


「放課後ちょっと報道部に顔出してから分室に行きますんでコーヒーでも飲んで待ってて下さい」


 昼休みにそう言いに来たので二人は大人しく待っていたのだった。

 大志はちらと幸枝を見る。

 幸枝も大志を見ていたので、何となくぎこちない笑顔をお互いに浮かべた。

 そう言えば最近幸枝が瀬尾と一緒に帰るようになってから、二人っきりでこんなふうに部屋にいるって事は無くなった。

 何となく微妙な空気が二人の間に有る様だ。

 そのおかしな雰囲気が何なのか大志は考えていると、幸枝の方から話しかけてきた。


「なんか久しぶりに感じるね。大ちゃんと二人っきりになるのって」

「あ、俺もそれ考えてた。ゆきちゃんとは朝の通学の時一緒なのに変だよね」

「ほんとだね」


 ちょっと空気が解れた気がした。


「あのさ……」


 幸枝は何やらその先を言いにくそうにしている。


「あ、瀬尾の事ごめんね。戸成があんな感じでグイグイ行くもんだから二人の時間まで潰しちゃったね」

「ああ、その事はいいの。気にしないで」


 幸枝はコーヒーカップに口を付ける。


「戸成さんと仲いいよね……」


 幸枝はぽつりと湯気の立つコーヒーカップに目を落としながらそう口にした。


「あ、まあね。結構面白い奴だろ」

「う、うん。面白い子ね……」


 また幸枝は黙り込む。


「付き合って無いって言ってたけどホント?」

「俺があいつと? ナイナイ。男友達みたいなもんだよ」

「私と大ちゃんみたいな感じ?」

「ちょっと違うかな。あいつは突っ走るだけ。俺は振り回されてるだけ。言う事を聞かない犬とそれを必死で追いかける駄目な飼い主みたいな関係さ」

「何それ。分かり易いけど酷い関係じゃない」

「そう思うだろ。いっつもそんな感じなんだ」


 幸枝が声を出して可笑しそうに笑う。


 何だかゆきちゃんと話してると落ち着くな。


 大志は目の前で屈託のない笑顔を見せる幸枝の顔を眺めながら、そんなことを考えていた。


「お待たせー」


 晴香が元気よく入ってきた。


「あー疲れた。先輩コーヒー淹れて」


 幸枝はその感じを見てクスクス笑う。


「お前、段々俺を顎で使うのに慣れてきてないか?」

「いいじゃないそれぐらい。欲を言えば私がリクエストする前にコーヒーぐらい淹れて欲しいんだけど」

「これだよ……」


 大志は苦笑しつつ言われたとおり準備してやると、晴香の前に湯気の立つコーヒーカップを置いた。


「ちょっと報道部のパソコンで画像の解像度を上げてたんです」

「え? じゃあ昨日のデータに映ってたって事?」

「そのとおり!」


 晴香は鼻高々にカップに口を付けた。

 お調子者ではあるが、やることは120パーセントやる奴だった。


「それでどうだった? なんか分かったか?」

「それは今から。気になる映像だったけど部室に先輩たちがいたからあんましちゃんと観れてないんです」


 そして晴香はタブレットを鞄から取り出して、解像度を上げた映像を画面に映した。

 三人はそれを食い入るように見る。

 そこにはトラックが不良三人に衝突した生々しい瞬間が映し出されていた。

 流石に三人とも顔を歪めてしまう。

 たった十秒ほどの映像だったが、起こった事を知るには十分だった。

 何度かリピート再生しているうちに三人はおかしな事に気付いた。


「撥ねられた三人の真ん中を歩いていた山崎だけが遠くまで飛ばされ過ぎてないですか」

「確かにあとの二人はそこまで飛ばされてないのに、真ん中の彼だけこの電柱まで飛ばされて激突してるわね」


 幸枝はその不自然な感じを渋い顔で見ている。

 大志は何も言わなかったがこういう風になる一つの可能性を思いついてしまっていた。


 まさか……いや、そんな事考えられない。


 晴香に目をやると、眉間に皺を寄せてしきりと何か考えているように見えた。


 戸成も同じ事を考えているのか……。


 しばらくして幸枝が重たそうに口を開いた。


「警察に見せた方がいいんじゃないかしら。高校生の私たちの扱っていい問題じゃないと思う」


 幸枝は生々しい映像を見せられて、流石にショックを隠せないみたいだった。

 だがその時大志はさっき頭に浮かんだある可能性が拭い去れない限り、警察に頼っても無駄だろうと考えていた。


「大ちゃん、戸成さん、ちょっと私生徒会に顔出してくるね。すぐに戻ってくるから帰りは一緒に帰ろうね」


 幸枝は少し気分の悪そうな顔色のまま分室を出て行った。


「なあ戸成、お前はどう思う?」


 晴香は恐らく大志と同じ事を考えている筈だった。


「先輩と同じ事を私も考えてました」


 晴香はもう一度タブレットの再生ボタンを押してすぐに一時停止した。


「これを見て下さい」


 晴香が指さしたのはかなり見え辛いトラックの運転席だった。


「トラックの運転手は普通に運転していただけなのに、気付いたら少し助手側に移動してたと言ってるんです。慌ててブレーキを踏もうとしたけれど、踏み込んだ所にはブレーキペダルが無かったのだと」

「警察は居眠り運転で片を付けたみたいですけど、運転手の言ってたことは本当です。ここに映っているんです」


 晴香は再び再生ボタンを押した。

 そこには不鮮明ながら運転手が一瞬で助手席側に30センチほど移動している映像が映っていた。


「恐らく先輩と同じ能力者の仕業だと思います」


 晴香は大志が頭に浮かべた可能性と同じ言葉を、苦々し気に吐き出したのだった。

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