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加速する世界の入り口で  作者: ひなたひより
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第37話 現場検証

 晴香の口車に乗せられて、幸枝までもが事件究明メンバーの一員となった。

 取り敢えず、先生や生徒からの話を聞いたりして、事故にあった三人の男子生徒についてひととおり調べ終えた後、その日は解散した。

 大志は自分たちの行動につき合わせて、幸枝に申し訳ないという気持ちを感じていた。しかしそれ以上に瀬尾に対して済まないという気持ちでいっぱいだった。

 晴香は瀬尾をメンバーに入れる気は全く無いらしく、大志がそれとなくどうかなと聞いたときにバッサリ一刀両断された。

 幸枝はしばらくの間、大志たちと行動する事になってしまったので、相当二人で会う時間が減りそうだなと心が痛んだ。

 それにしても、翌日からの晴香の行動力の凄まじさは幸枝をいきなり驚かせた。


「現場検証しますから放課後空けといてください」


 そんな事までやるのかと二人とも唖然としていたが、晴香は本気も本気だった。



 皆が帰り支度をしていた一日の終わりのホームルームで、担任教師の天海順子は昨日あった事故のその後を生徒たちに話した。


「意識不明になっていた生徒が今朝亡くなりました」


 静かにどよめいた教室の中で、ますます深刻な様相を帯びだしたこの一連の事件に、大志は冷たい汗を流したのだった。



 晴香の言うがまま、大志たちはあの三人が事故にあった場所にやって来た。

 花が供えられていたので、ここだとすぐに分かったが、やはり気味が悪かった。

 晴香はお構いなしにバシバシ写真を撮っている。

 大志と幸枝は何をやっていいのか分からずに突っ立ているだけだった。

 写真を撮り終えて、そちらの方は気が済んだのか晴香は鞄からタブレットを取り出した。


「えー、トラックはあっちからやって来ていますね。そんで三人はここの通路を道を塞ぐように横並びで歩いていた」

「なに? 何でそんな事知ってるの」


 幸枝は素直に晴香の話に驚いている。


「ニュースの目撃証言と状況証拠を照らし合わせています。この道一方通行だからあっちからしか車は来れませんよね」

「刑事みたいだな……」

「本当ね……」


 二人はただただ感心した。


「花がここにあるって事はこの場所が被害者が倒れてた地点だから、衝突地点からずい分遠いわね。衝突前のブレーキ跡がこの辺りからだから、残りの二人もこのあたりまで飛ばされたと考えればいいのかな……私の調べた限りではここまで飛ばされる事は無さそうなんだけど」


 晴香は走っておおよそ飛ばされそうな位置まで移動した。

 そして周りをくまなく調べ回る。


「俺たちも探そうか?」


 大志が声をかけた時にはもう何かを見つけていた。


「ここにうちの制服のボタンが挟まってます。それと少量の血痕」


 晴香が指さした側溝の網に、なるほどボタンが挟まっていた。

 それと晴香の言う少量の血痕も大志は確認した。


「恐らく二人はこの辺りに、山崎だけが向こうの電柱まで飛ばされてます」

「どういう事なんだ……」


 大志は首をひねった。


 それから晴香はまた周りを調べ回っていたが、特に収穫はなさそうだった。


「そろそろね」


 晴香は時間を気にしながら周りを見渡した。

 晴香の様子を観察していた二人は特にすることも無く、少し暗くなりかけた空を見上げた。


「なあ戸成、暗くなる前に帰らないか?」


 晴香はただじっと何かを待っているみたいに動かない。


「先輩」


 手招きされて晴香の傍に二人は行く。


「たった今、事故が起こった時刻になりました。これからしばらくこの辺りを観察してから帰りましょう」

「観察って?」


 何も考えずに付いて来ただけの二人に晴香は説明した。


「この辺りは住宅地で特定の防犯カメラが無かったんです。つまり少数の目撃証言と当事者の証言だけしか人的情報が無い。この時間を通りがかる人がいるとすればその人は事故を目撃したかもしれないし車が通ったとしたらドライブレコーダーに記録されているかもしれない」


 晴香の説明を聞いて大志も幸枝も驚いた。


「お前ホントに凄いな。刑事でも何でもなれそうだ」

「だから先輩たちも気をつけて周りを見ててください。この時間に散歩する人だっているかも知れない」

「分かった。戸成の言うとおりにするよ」


 大志も幸枝もそれから周りに注意しながらじっと待った。

 そのうちに暗くなってきた。

 何人か通りがかった人に事故のことを尋ねてみたが、全部空振りだった。


「今日はこれぐらいにしないか?」


 止めないといつまでも張り込みを続けそうな晴香に大志は声をかけた。


「来ました」


 一方通行の住宅街の道。この時間帯にここを通るのは、近辺に住んでいる住人である確率が高かった。

 晴香は何のためらいもなく道を塞ぐと、手を振って車を停めた。

 停車した車の窓が開いて、仕事帰りらしい中年の男性が顔を出した。


「すみません。ここで先日有った事故を調べてるんですけど」


 晴香はストレートに尋ねた。

 男性は「ああ、あれね」と窓越しに話す。


「大変な事故だったね。あの事故にあった高校生の友達かい?」

「まあそんなところです。ちなみに事故を見たりしていませんよね」

「今日は少し遅いけど、いつもはもうちょっと早く帰宅するんでね、家に帰った後、少ししてからドーンて大きな音がしたんでびっくりして見に来たんだ。でもはっきり言って思い出したくもない光景だったよ」

「そうですか事故の瞬間は御覧になられてないんですね」

「ごめんね。俺が見たのはもう結構人だかりができた後だったよ」


 晴香が礼を言うとそのまま車はゆっくりと走って行った。


「駄目か。しょうがないよ」

「そうね。また明日来ましょうよ」


 大志と幸枝がさあ帰ろうと、もと来た道を歩き出した時、晴香は思い切り走りだした。


「戸成、どこいくんだ!」


 大志と幸枝は遅れてついて行く。

 晴香は30メートルほど走ってから突き当りの家のインターフォンを押した。


「どうしたんだ? いきなり走り出して」


 呼吸を整えながら晴香が駐車してある車を指さす。


「さっきの車だな。それがどうかしたのか?」

「ドライブレコーダー載ってますよね」


 幸枝は窓を覗き込む。


「うん。載ってるみたい」

「機種によっては駐車してからしばらく録画し続ける物も有るんです。ひょっとしたら何か記録されているかもしれません」


 大志は後ろを振り返った。確かにここからなら少し遠いが見通しはいい。

 その時ドアが開いてさっきの男性が姿を見せた。


「何度もすみません」


 事情を説明し、晴香はそれはもう簡単にデータをコピーさせてもらった。

 大志はつくづくすごい奴だと感心した。

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