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加速する世界の入り口で  作者: ひなたひより
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第36話 燃えるタイプ

 瀬尾と一緒に下校しようとしていた幸枝を、靴箱の前で晴香は捉まえた。


「多田先輩、ちょっと」


 いきなり腕を掴まれた幸枝は、前の事も有り滅茶苦茶警戒していた。

 後から現れた大志に「どうしたの」と幸枝は尋ねる。


「ごめん。ちょっと話があるんだ」


 幸枝は瀬尾に先に帰っててと済まなさそうに言った後、二人に連れられてあの廃部になった部室に連れて来られていた。


「何? 廃部になった部室がどうしてこうなってるの?」


 かつての映画研究会があった部室は、ちょっと寛げる快適な空間になっていた。

 小物やクッションが置いてある。それらはみんな晴香がちょこちょこ持ち込んだものだった。


「いや、まあこんな感じになっているのを見せたかった訳じゃないんだけどね」


 大志はそう言いながらもポットからお湯を入れて、三人分のインスタントコーヒーを作った。


「まあ、どうぞ」

「いただきます」


 晴香は袋菓子を開けてテーブルの真ん中に置いた。

 幸枝はどうゆうことなのかと、険しい顔で部屋の中を観察している。


「お菓子まで有るのね……」


 妙な快適さの有る部屋に戸惑いながらも、幸枝は湯気の立つコーヒーに口を付けた。


「ねえ大ちゃん達ってここで何やってるの?」


 幸枝の疑問は尤もだった。廃部になった部室を快適に作り変えて何もやっていない訳は無かった。


「報道部の分室です」


 晴香はサラッと適当な事を言った。

 幸枝は疑いの目を晴香に向けた。


「なあ戸成、それはちょっと無理があるんじゃないか。こうなったらゆきちゃんに打ち明けとこうよ」


 この状況、そしてこれから協力してもらわないといけないのだから、率直に打ち明けるべきなのだろう。

 しかし晴香はこの期に及んでも、どうしのごうか悩んでいるみたいだった。

 しばらく言葉の出てこない晴香よりも先に、幸枝が想像力を働かせ、ちょっとした妄想を作り上げてしまった。


「打ち明けるってまさか……」


 胸に手を当て、幸枝は動揺抑えようとしているみたいだった。


「二人って……付き合ってるの?」


 幸枝はそっちの方に勘違いしていた。


「いやいやいや」


 大志は首を横に何度も振った。


「そうゆうんじゃなくって全然別の話なんだ」


 否定した大志に晴香は不満そうな顔をするが、大志は全く気付いていない。


「じゃあここで戸成さんと何していたの? 何にもない事無いんでしょ」


 幸枝はなんだかそっちの方ばかり気になっているみたいだった。

 大志に猛烈に否定されたのが気に食わなかったのか、晴香は面倒くさい事を言い始めた。


「多田先輩には関係ない事ですよね。私たちの事……」


 幸枝はそう言われて口ごもる。


「わ、私は勝手に廃部になった部室を使ってるのを見逃せないだけよ。一応生徒会のメンバーだし」


 これは晴香のペースになって来たなと大志は思ったが、何となく話の中に入って行き辛くてもう少し様子を見ることにした。


「何をしてたのかと言われても……」


 晴香はちらと大志の方に流し目を送る。


「それは私の口から言いにくいな……」


 わざとちょっと恥ずかし気に言ったみたいに大志には感じられた。

 調子に乗った晴香は、机にあったポットに手を置いて、フッと口元に意味ありげな笑みを浮かべた。


「ここで寛げるように、このポットだって先輩が持ってきたんですよ」


 幸枝の顔色が変わった。


「そういう事なのね……」


 どう考えても誤解されるような発言に乗せられて誤解した幸枝を、大志はどうしたものかと考える。


「えっと、なんか変な風に取ってる?」


 大志は何となくイライラしだした幸枝にそおっと聞いてみた。


「いいえ、見たまんまに取ってるわ」


 幸枝は口をへの字にして席を立った。


「先帰ってる。二人の邪魔したくないし」


 あからさまに不機嫌な感じで出て行こうとした。

 大志は幸枝が変に取ってそうなので、晴香にいい加減にしろと文句を言った。

 晴香はペロリと舌を出して、幸枝を引き止めた。


「ねえ、多田先輩、さっきまでのは冗談なの」


 悪びれもせず晴香はけろりとしていた。


「どういう事?」


 晴香は何となくすっきりとした顔で説明し始めた。


「私達今、学園の闇を探っているんです。後藤健輔から始まったこの一件を調べてやろうとしてるんです」


 晴香は今回の三人の詳細を話した後、これからやろうとしている事を幸枝に説明した。


「ね、報道部の分室ってそれほど的外れでもなかったでしょ」


 言われてみればそうかもなと大志はまた感心した。

 幸枝は晴香の話を聞いて、明らかに不安そうな顔をした。


「それって結構危険よね。もし事故じゃなくって事件だったら警察の仕事でしょ」

「だから特ダネなんじゃない。これを逃す手は無いわ」


 晴香は食いついたら放さない土佐犬みたいな執拗さで、事件に噛みついているみたいだった。


「それで、なんでパートナーが大ちゃんで、その上私も引き入れようとしている訳?」


 いい加減加速していた事を打ち明けないと、話のつじつまが噛み合わなくなってきだしたと大志は思っていた。

 晴香はそんな大志にお構いなしにドンドン適当な話を作り上げる。


「丸井先輩には事故の時に助けてもらってるから私としては信頼してるんです。多田先輩は丸井先輩が一番信頼している人だから安心でしょ。校内に事件を起こしたおかしな人がいるとしたら、誰かれ無しにうっかり話せないじゃないですか」


 すごい。即興で話をでっち上げた。


「そうね。それは慎重にいかないとね」


 幸枝はまんまと晴香の巧みな話術に嵌っていた。


「それに私が屋上から落ちたのも腑に落ちないんです。あの時あそこにいたメンバーで集まれば見落としていた所も気付くかもって思ったんです」


 さらに凄いな。おまけに説得力が増しているじゃないか。


 幸枝は何度か頷いてから決心したみたいだった。


「分かったわ。協力する。でも何かおかしな事になりそうな感じがしたらすぐに手を引くって約束して」

「勿論です。じゃあ決まりね」


 大志は知っていた。おかしな事になったら晴香は燃えるタイプだと言う事を。

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