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加速する世界の入り口で  作者: ひなたひより
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第32話 学園のごろつき

 ホームルーム後に帰り支度をしていると、廊下側の窓からチラチラと晴香の姿が見え隠れしているのに大志は気が付いた。


 あいつまたふざけてるな。


 大志は視界の隅に何度も窓から顔をのぞかせる晴香を認識していたが、あえてゆっくりと帰り支度をしてやった。


「おそいっ!」


 しびれを切らしたのか、もうひと気の無くなった教室にずかずか乗り込んできた。


「今日もミーティングするんだから早くして下さい」

「そう慌てるなよ」

「私は慌てないけど先輩は慌てて下さい」


 晴香は大志の腕を掴んでぐいぐい引っ張った。


「分かった。分かったから……」


 大志は鞄を持って、今日もやる気に満ち溢れる晴香について教室を出た。

 そして大志は二つ隣の四組の教室の方に目をやった途端立ち止まった。


「もう早くして……」


 急かそうとした晴香だったが、大志の様子がおかしなことに気付いて、その視線の先に同じように目を向けた。

 三人の男子生徒が一人の男子生徒を取り囲んでいる。

 大志は取り囲まれている男子生徒が、あの市川であることにすぐに気が付いていた。

 そして取り囲んでいる連中が誰であるのかも知っていた。


 あいつらだ。


 大志は忌々し気にその三人を険しい表情で見据える。

 転落死した後藤といつもつるんでいた連中。

 一年の時に自分が散々馬鹿にされた札付きの奴らだった。

 市川を執拗に小突いて楽しんでいる。

 市川はじっと耐えているように見えた。

 周りに生徒達がいたが、皆そ知らぬふりで通り過ぎる。


 俺の時もそうだった。


 でも……。


 少し丸顔の明るい笑顔が頭に浮かぶ。


 ゆきちゃんだけはあいつらに盾突いてくれた。


 俺だって……。


 大志は取り囲まれた市川に向かって一歩を踏み出した。


「やめろよ」


 大志の口から硬い声が出た。


「は?」


 振り返ったのは山崎という後藤と同じくらい質の悪い奴だった。


「何だでくの棒か。今取り込み中だ。消えろ」


 山崎はまた市川を小突き始めた。

 市川が大志に目を向けた。

 もう諦めたような眼。

 早く終わってくれと、じっと耐えていたあの暗く冷たい感覚が大志の中に甦った。


「やめろって言ってんだ!」


 大志の口から自分でも予想外なほどの大きな声が出た。

 市川を小突いていた三人の目が大志に突き刺さる。


「お前何調子こいてんだ。こら」


 山崎が大志の胸ぐらを掴む。

 そして殴ろうとして腕を振りかぶった。


 カシャ!


 ストロボの光が山崎に浴びせられた。


「はい、いいの頂きましたー」


 晴香は山崎が殴りかかる瞬間を、いつも胸に提げているカメラに収めていた。


「あれ? 殴っちゃわないんですか? いいところでシャッター切りたいんですけど」


 険悪な空気にまるで動じることなく、晴香は堂々と言い放った。

 写真を撮られた不良たちは、一瞬唖然としてから晴香に向き直った。


「お前、そのカメラを寄こせ」


 山崎とあとの二人は晴香に詰め寄ろうとした。

 凄みを利かせた不良たちに向かって、晴香はまたシャッターを切った。

 ストロボの光の眩しさで三人は目を抑える。


「またまたいいの頂きました。タイトルはそうねえ……」


 晴香はニヤリと悪魔のような笑いを口元に作った。


「学園のごろつき、三人がかりで女生徒を襲う」


 晴香が騒ぎ出したので周りに見物人が集まってきた。

 何もかも計算ずく。その度胸としたたかさに大志は舌を巻いた。


「皆さーん、何でもないんです。不良が私を襲おうとしているだけでーす」


 堂々とし過ぎている晴香の態度に、周囲も興味を持ちだしたのか、さらに人だかりが出来始めた。

 大志は驚きを通り越して可笑しくなってきた。

 そのうちに人だかりがまた見物人を引き寄せ始めた。

 こうなっては不良たちも手も足も出なかった。


「くそっ。覚えとけよ」


 小悪党が残す典型的な捨て台詞を言った後、三人は足早に退散していった。

 敗走した不良たちを、ざまあみろと見送った晴香は、晴れ晴れとした顔をしていた。

 大志はその手際の鮮やかさに、心の中で拍手をした。


「戸成、ありがとな」

「へへへ」


 大志は晴香にさらっと礼を言うと、呆然としたままの市川の肩を叩いた。


「女の子に負けて退散するなんて、つまんない奴らだな」


 大志は晴香のお陰でなんだか可笑しくって、ニヤニヤしてしまっていた。


「そ、そうだね。ほ、本当だね」


 市川もつられて、ようやく表情を崩した。


「あ、ありがとう。ま、丸井君。それと……」

「戸成晴香です。報道部期待の一年生です」

「自分で言うか。まあいいけど」


 大志は晴香の頭をポンポンと軽くたたいて、もう一度礼を言った。

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