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加速する世界の入り口で  作者: ひなたひより
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第30話 遅いタイプ

 放課後また、勝手に廃部になった部室を拝借して、大志と晴香はコーヒーを飲んでいた。

 今週はお菓子当番だと言われていたので、大志はしぶしぶ袋菓子を買ってきていた。

 断りもせず勝手に袋を開けて、サクサクといい音をさせて食べだした晴香は今日は大人しかった。


「本読んできたよ。初級編だけだけど」

「じゃあそれ、次私読むんで回してください」


 大志は晴香に本を手渡す。


「面白い事書いてありました?」

「面白いとかじゃなくって、急に難しくなってあんまし理解できてないんだ。読んだら分かるよ」

「ふーん」


 晴香はサクサク言わせながら何か考えているようだ。


「引き金は解ったし、加速している間は水面も移動できるって解った」


 晴香は渋い顔をして腕を組んだ。


「でも、そもそもなんで先輩がそんなことできるようになったのかなって考えてたんですけど、なんか思い当たる事無いですか?」


 そう訊かれて大志は晴香と同じように腕を組んで考える。


「教授が言ってましたよね。人それぞれに時間の流れがあって、稀に生活に支障をきたすほど時間の流れに障害のある人がいるって。それって先輩の事じゃないかって思うんです」


 晴香は自分なりの仮説を立ててきたようだった。


「実は昨日の夜、教授とその事についてオンラインで討論してたんです」


 大志はまたまたびっくりした。


 どんだけ仲良くなってんだ……。


 口には出さなかったが、すごい奴だなと感心させられた。


「教授はもしそう言う人間がいたとしたらと仮説を説明してくれました。それがこれです」


 晴香は何枚かの紙を綴じたものを大志に渡した。


「そこにあらましをまとめときました」


 大志はびっしりと文字で埋まった用紙をめくりながら、晴香の行動力と手際の良さに感服した。


「戸成、お前は凄い奴だな。東大でも何でも行けるんじゃないか?」

「私、成績は中の上ぐらいです。勉強はあんまし……」


 へへへと笑う晴香だったが、本気を出せばどこまでも伸びていきそうだなと大志は思った。


「そこに書いてあることですけど、時間に障害を持つ人のタイプは二種類、人より時間の流れが著しく速いタイプと、遅いタイプのどちらかです」

「ふんふん」

「速いタイプは普通の人の動きが遅く感じられます。遅いタイプはその逆です。先輩の場合、生活に支障が出るほど時間の流れが遅延しているのではないでしょうか」


 大志は確かにそうかもと色々と思い当たった。


「戸成の言うとおりかも。小さいころから何をやっても人より遅くって置いてかれるんだ」


 晴香はそれを聞いて鞄から一枚紙を出した。


「教授から聞いた情報をもとに、あなたは遅いタイプ? 速いタイプ? ってテスト作ってみました。今から言う事に口頭で答えていって下さいね」


 晴香はちょっと楽しそうにテストを始めた。

 大志はやや緊張した顔で姿勢を正した。


「第一問。あなたは走るのは速い方ですか? 速い、普通、遅い、酷い、から選んでください」

「最期の酷いってなんだよ」

「早く答えて」

「じゃあ、最後のやつで……」


 何だか自尊心を傷つけられるテストだった。


「第二問。試験の時、正解不正解は問わず解答用紙は埋められますか。全部埋めれる、ほぼ埋めれる、けっこう歯抜け、酷い、からどうぞ」

「じゃあ、最後のやつで……」


 そして自尊心をズタズタにされながら十問答え終えた。


「おめでとうございます。オール酷いのあなたは稀に見る天才的な遅いタイプです」

「そりゃどうも」


 馬鹿にしてるのかと、不貞腐れながらそう言った。


「お前、俺に何か恨みでもあるのか」

「何にもないです。気のせいじゃないかな」


 晴香はなんだかすっきりした顔をしている。


「教授が言うには、個人の時間の流れがあまりにも自然界の時間の流れと乖離していた場合、時間の差異というストレスがたまり続けて、何かのきっかけで正常な状態に戻ろうとして加速、あるいは減速に陥るのだと言う事でした。簡単に言うと、地震と同じです。大陸のプレートにストレスがかかってある日突然反動で地震が起こる。あれです」

「なるほど」

「先輩の場合は生まれてからずっと時間の差異のストレスを溜め続けてきた。きっかけさえ有れば自然界の時間の流れに迫る加速をしてしまうほど、時間の貯金が溜まっているんだと思います」

「そのきっかけがゆきちゃんだったって事か……」


 ぼそりと大志がつぶやくと晴香の表情が変わった。

 ふくれっ面でお菓子を食べ始める。


「私、これあんまり好きじゃない。明日は別のやつにして下さい」


 一人で全部食べといてよく言うよ。


 大志は文句を言おうとしたが、えらく機嫌の悪そうな雰囲気を感じて黙っている事にした。

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