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加速する世界の入り口で  作者: ひなたひより
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第27話 加速再び

 二人とも危ないなと注視していた矢先の事故だった。

 叫び声を上げた晴香もそうだが大志も相当うろたえていた。


「助けないと!」


 大志があたふたしつつ立ち上がろうとする。


「先輩、加速して!」

「出来るんならやってるよ!」


 周囲が気付いて騒ぎ出す中、一番慌てふためいていたのは孫が池に落ちてしまったお爺ちゃんだった。

 なんとかしようと立ち上がって溺れている孫に手を伸ばすと、見事にボートは転覆した。


「きゃー!」


 さらなる悲惨な事態に、晴香は叫び声を上げた。

 その時、大志の視界に瀬尾と幸枝の乗ったボートが入ってきた。

 幸枝はお爺さんが乗っていたボートが転覆したのを見て、叫び声を上げた。


「誰か! 助けてあげて!」


 大志の頭の中でゴトリと音がした。


「きた!」


 大志の声に晴香が目をやったときには、ボートの上から大志の姿は消えていた。

 そして瞬きした後、ずぶ濡れのお爺さんと孫が、晴香の乗るボートに乗っていた。


「えーーー!」


 すっとんきょうな声を上げてから晴香は大志がいない事に気付いた。

 何が起こったのか分からずおたおたしているお爺さんと大きな声で泣いている孫を、とりあえず無視して大志を探す。


「先輩! せんぱーい!」

「ここだよ」


 よく見るとボートのへりに手がかけられていた。


「何してるんですか!」


 覗き込むと大志は水に浸かっていた。


「後で説明するよ。とりあえず戸成がボートを漕いで二人を岸まで連れて行ってやってくれ。俺は泳いでその辺から上がるからさ」


 大志はそう言い残すと、目立ちたくないのかそそくさと平泳ぎで近くの岸に泳いでいった。



 お爺さんと孫を岸にあげて滅茶苦茶お礼を言われた後、どこに行ったのかと探していると、背の高い草むらの陰で大志はガタガタと震えていた。


「あちゃー、びしょびしょだ」


 晴香は気の毒そうに、滅茶苦茶寒がっている大志を気遣った。


「寒い。風邪ひきそうだ」


 ブルブル震えながら大志は何とかして欲しいと晴香を見つめる。


「そんな捨て犬みたいな目で見ないで下さいよ。ちょっと待って、今考えてるから……」


 そしてひらめいたようだ。


「先輩お金、幾らぐらい持ってる?」

「二千円ぐらい……」

「私のを足せば何とかなるか……ちょっと待ってて。何か着るもの買って来るから」


 大志のびしょびしょの財布を受け取って、晴香は走って行った。

 大志は震えながらこう考えていた。


 もしあいつがそのままどこか行ってしまったら、俺は終わりだな。



 しばらくして、晴香はちゃんと律儀に着るものを買って戻って来た。


「た、助かった……」


 大志はびしょ濡れの服を脱いで着替え始めた。

 晴香はその様子をじっと見ている。


「ちょっと遠慮してくれる?」

「へへへ」


 晴香は後ろを向いた。


「先輩、もういい?」

「いいけど、これってどうなんだ?」


 大志の着替えた服は普通じゃなかった。

 薄ピンクのひらひらが付いたシャツまではまだいい。ヒョウ柄のパンツは男子高校生の穿くものではなかった。


「その……個人でやってる婦人服店しかなくって」

「いや、それにしてもこのチョイスは無いような……」


 大志は見事なヒョウ柄のパンツを眺めて嘆いた。しかもパッツンパッツンだった。


「仕方ないじゃない。やたらと高かったから三千円でお願いしますって頼みこんだら、売れ残ってたので良ければってこれが出てきたの」

「そう言う事か」


 大志は風邪をひくことを考えれば仕方ないとあきらめた。


「しかしおかしくないかこの格好、俺は変態ですって宣伝して歩いているように見えないかな?」


 さっきから晴香が笑いをこらえている事に大志は気が付いていた。


「いえ、大丈夫……プッ」

「今ちょっと吹き出さなかった?」

「いいえ。き、気のせいですよ。ヒヒヒ」

「何だよ! おかしいならおかしいって言えよ!」


 晴香は我慢できなくなったのか、腹を抱えてヒーヒー笑い出した。

 ピンクのひらひらとパッツンパッツンのヒョウ柄で大志は立ち尽くす。


「一体どうやって帰ればいいんだ……」


 ヒーヒー言ってる晴香の前で大志は泣きそうだった。

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