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加速する世界の入り口で  作者: ひなたひより
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第18話 作戦会議は食べながら

 大志は背中を、晴香はお尻を押さえながら校舎の階段を上っていた。


「いててて」

「いたた」


 幸枝の生徒会の仕事が終わるのを待っていた大志だったが、晴香とドタバタしていたせいで遅くなっていた事に気付いていなかったのだった。


「ゆきちゃんもう帰ったかなあ」


 大志が生徒会室のドアをノックすると中から女子生徒が二人出てきた。


「あの、多田さんってまだいますか?」


 大志は名前は知らないが見覚えのある二人に尋ねた。


「さっき帰ったわ。瀬尾君と一緒に」


 大志の胸がキューと痛む。


「分かりました。ありがとうございます」


 大志は久々に幸枝と帰れる事をちょっと楽しみにしていたので、やや気持ちが顔に表れた。


「多田先輩ってさっき言ってた人と付き合ってるんでしょ。何邪魔してるんですか」


 何となく気にしている所を晴香に突かれて黙り込む。


「私が途中までだけど一緒に帰ってあげますよ。そんで次の作戦を立てましょうよ」


 尻を押さえながらも何だか楽しそうな晴香に連れられて、大志は帰る事にしたのだった。



「先輩お腹すいた」

「は?」


 下校中、あーだこーだと話していた晴香が突然言いだしたので、大志は立ち止まった。

 そして晴香が少し前方を指さす。


 ああ、そうゆう事か。


 学生ご用達のたこ焼き屋がそこに在った。

 大志も時々匂いに誘われて幸枝と寄って帰る店だった。

 おばちゃんが一人でやっていて、狭い店内に二組ほどだが座って食べれる席がある。

 おばちゃんと言ったが実際は65歳から70歳までの間だと大志は読んでいた。

 晴香に手を引かれるまま自分も少しお腹がすいていた大志は、店内に入って顔なじみのおばちゃんに挨拶した。


「あー疲れた」


 晴香は小さい椅子に腰かけて大きく伸びをした。


「先輩、私六個入りのたこ焼きでいいです」


 何だか奢ってもらうのを前提に寛ぎだした晴香だった。


「ひょっとして俺が出すの?」

「え? こんなにつき合わせといて奢ってくれないんですか?」


 信じられないという顔をされて、大志はしぶしぶおばちゃんにたこ焼き二つと注文した。


「四百円ね」


 大志がお金を払うと、おばちゃんは晴香をちらと見て小声で言った。


「今日は幸枝ちゃんと一緒じゃないんだね」

「あ、うん。今日はちょっとね」

「こないだちょっとカッコいい子とここに来たよ。あんたフラれたのかい?」


 おばちゃんは情報通だ。


「いや、ゆきちゃんとは幼馴染なだけだよ」

「そうかい。それであんたもねえ……」


 おばちゃんは今度は晴香をジーっと見た。


「なかなか芯が強そうな感じだね。あんたこれからあの子に振り回されそうだね」


 もうすでに振り回されていたが、なかなか見る目が有るなと感心した。


「まあゆっくりしていきなよ」


 おばちゃんはそう言いつつ、たこ焼きをひっくり返しにかかった。



 濃厚なソースの臭いを楽しんだ後、熱々のたこ焼きを口に入れた。


「あっつ」


 はふはふ言いながらたこ焼きを二人は頬張る。

 はっきり言って腹が減っているときはまあまあ美味しくって、減っていないときはそこそこの味だった。


「うんまい」


 晴香はニコニコしながらまた一つ頬張った。


 美味そうに食べる子だな。


 大志はちょっとだけそんな晴香のご満悦な顔を眺めていた。


「何見てるんですか」


 大志の視線に気付いて晴香は少し恥ずかしそうにする。


「いや、美味そうに食べるんだなって思ってさ」

「あんまり見ないでよ」


 この子でも照れたりするんだなと、変な意味で感心した。


「取り敢えずボールと美少女には先輩の能力は反応しなかった。車に撥ねられた時も反応しなかったって事は、ボールと美少女と危険な場面は関係ないのかな」


 美少女ってところがどうやら気に入っている様だ。

 晴香はたこ焼きを一個だけ残して、また大志の能力についてあれこれ考えだした。


「先輩の能力が発動した時って、何もかも止まってしまうんでしたよね」

「いや、動きのあるものはゆっくり動いてた。ボールは落書きが出来そうなぐらいノロノロだったし、戸成が屋上から落下していくのもそれ以上に遅かった」

「それって時間が止まったんじゃなくて、止まって見えるぐらい時間がゆっくり流れていたって事かな、時をゆっくりにしてしまう能力なのかな」


 晴香は腕を組んで目を閉じた。


「うーん」


 何やら考えているポーズを取っているが、行動力以外は期待していなかった。


「とにかく私らが視認できない状態で、先輩は行動できるって事ですよね」


 ちょっとまともな解答に大志は少し見直した。

 晴香は最後の一個に楊枝を突き刺したあと、口に運ぼうとせず、そのまま大志に質問を投げかけた。


「能力が発動するときってどんな感じですか?」

「ああ、そうだ。頭の中でゴトリって音がするんだ。そっからキーンって何かが高速で回転するような音がするんだ。その音がしている間だけ周りの人は止まっている。実際は極端にゆっくり動いているみたいだけど」

「へえ、キーンって音のしている間だけか……その音ってなんだかモーターの回転音みたい、家の車、最近電気自動車に買い替えたんですけど加速するときそんな音してた様な気がするな」


 晴香は最後のたこ焼きを口に入れて、もぐもぐと味わった。


「加速してる車からゆっくり動いている車を見たら、止まって見えたりするのかな」


 何気ない晴香の一言だったが、何故かその言葉は大志の胸にいつまでも引っ掛かっていた。

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