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加速する世界の入り口で  作者: ひなたひより
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第16話 相棒になった少女

 結局、紅白戦はいいとこなしで負けた。

 最後の打席、幸枝の前で大志は盛大に三振したのだった。


「次があるよ。今日はたまたま打てなかっただけだよ」


 そんな感じで慰めてくれる幸枝だったが、大志はたまたまなのは今回ではなく前回なのをよーく分かっていた。


「でも何だか変なのよね、あの片山って子が打った打球さ、あの報道部の子に真っ直ぐ飛んでいったように見えたんだけど見当たらないんだって」

「へー、そうなの」


 大志は目を合わせないように返事した。


「きっと大ファールだったんじゃないかな」


 そう言いながら自分が適当に投げたボールの行方を考える。


 後で見に行ってみるか……。


 投げた方向だけは何となく覚えていた。



 幸枝が生徒会の集まりで忙しくしている間、大志は例のボールを探していた。


 無い。


 学校の敷地にはいくら探しても見当たらなかった。

 そしてまさかとは思ったが、フェンスの外を散策してみる事にした。


 方向はこっちだったけどな……。


 背の低い草むらに足を突っ込んで、雑草を踏み分けながら探してみる。

 半分以上諦めながら、大志はそこいら一体を目を皿のようにして探し回った。


「先輩」


 いきなり後ろから声を掛けられて、大志は飛び上がった。


「なんだ戸成か」

「何だは無いでしょ。こんなところで何してるんですか」


 いきなり現れた晴香に鋭い質問を浴びせかけられて、ちょっと考えたが、肝心な事を除いて素直に説明する事にした。


「ボールだよ。片山が打った大ファール。暇だから探してた」


 大志は説明しながら、晴香の様子が元気の無かった今朝となんだか違うことに気が付いた。


「それは私がそこで見つけました」


 晴香は大志に見つけたボールを見せた。

 先に探しに来て、おおよその方向が分かっていた自分よりも、早くボールを見つけ出していた晴香に舌を巻いた。


「こんなところまで飛んでくるとは。片山は凄い奴だな」


 晴香は適当に胡麻化そうとする大志を、何か言いたげに見据える。

 この娘は何かに気付いている。大志はわきの下から汗が流れるのを感じた。


「私もう先輩に付きまとわないって言いました」


 晴香の口調は真剣そのものだった。


「でも、どうしてもはっきりさせたいんです。先輩が何者なのか」


 晴香は大志の腕を掴むと、そのまま近くの児童公園まで引っ張って行った。



 周りに人がいない事を確認してから、晴香に促され、二人は子供用の低いベンチに座った。

 丁度垣根が有って、ここからならあまり誰かに見られる心配はなさそうだった。


「何だよ。何をはっきりさせるって?」


 隣に座り、首から提げたカメラを弄る晴香に向かって大志は尋ねた。


「このカメラで片山先輩の打つ瞬間を狙ってたんです」


 晴香は液晶画面を見ながら何やら操作をしている。


「このカメラ、モータードライブが搭載されている機種なんです。一秒間に10コマの写真を撮れるんです」


 そして晴香はカメラの紐を首から外した。


「私はあの時、打つ瞬間を逃さない様、モータードライブで撮っていたんです。オートで撮っていましたけど、シャッター速度は4000分の1秒でした。そして私の方に真っ直ぐボールが向かってきた」


 晴香はカメラの背面にある画像確認用のスクリーンを見せた。


「丸井先輩、これがどういう事なのか説明してくれませんか」


 晴香が見せた画像には、空中のボールを掴む大志らしき影が写っていたのだった。


「一秒間に撮った十枚のうちの一枚です。しかも4000分の1秒で切ったシャッターでさえ残像のようにブレていたこの写真」


 晴香は決定的な一言を大志に突き付けた。


「こんなの人間に出来る事ではない。私はそう思います」


 晴香に詰め寄られて、大志は胡麻化そうと笑ったが相手は真剣だった。


「これ、俺かなあ? だいぶブレてて鮮明じゃあ無いみたいだし」

「確かに残像みたいだけど、私には丸井先輩にしか見えません」


 証拠写真まで取られていては流石にまずいな。大志は心の中で舌打ちした。


「その前にありがとうございました」

「え?」

「私に向かってきたボールを止めてくれたんですよね」

「いや、別にいいんだよ」

「やっぱり丸井先輩じゃないですか!」


 誘導された!


「今、自分の口で吐きましたよね」


 なかなかやるな……。


「い、言ってない」

「嘘つき!」


 問答はしばらく続いたが、大志は晴香の最後に言い放った言葉で観念した。


「先輩の事、私誰にも言いませんから。でもシラを切り通すのなら真実を知るまで地の果てまでも追いかけます!」


 流石にぞっとした。


「分かった。正直に話すよ。でもさっき言った事は守ってくれよな」


 そして大志はしぶしぶながらも、自分の身に起こった不思議な事を晴香に聴かせた。

 終始目を丸くしていた晴香は話を聞き終え、しばらく考え込むように黙っていた。


「という訳で、とてもにわかに信じがたい話だったと思うけど、今言った通りなんだ」


 話し終えてそそくさと大志は低いベンチから腰を上げた。


「ちょっと待って」


 晴香は大志の腕を掴んだ。


「私、信じます。先輩の事」


 そして晴香も立ち上がった。


「先輩のその不思議な能力って突然起こるんですよね」

「まあ、そうなるね」

「私にお手伝いさせてもらえませんか、先輩の能力が一体何なのか、先輩だって知りたいんじゃないんですか」


 何を言い出すんだと思ったが、確かにそう言われれば理解しがたい事を放ったらかしにしておくのは気持ち悪かった。


 しかしなあ……。


 ちょっと、いや、かなり興奮気味の一発当てたろう娘を横目で見る。


「何ですか? こう見えても私、結構頼りになるんですよ。行動力には自信があるんです」


 頼りになるかはともかく、行動力に関してはその通りだと思った。


「そうだな、じゃあ頼もうかな……」


 大志は不安を拭い去れないまましぶしぶ頷いた。

 晴香は目を輝かせて跳び上がった。


「やった! 私ヒーローの相棒になっちゃった!」

「いや、何言ってんの?」

「この私を補佐役に選んだ先輩はお目が高いですね。絶対ご期待に応えて見せますから」


 選んだ訳でもなく期待もしていない。ご機嫌な晴香に手を引かれながら、大志はえらいのに目を付けられたものだと肩を落とした。

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