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加速する世界の入り口で  作者: ひなたひより
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第14話 事故の後

 大志は病院のベッドに腰かけ、目の前で母親と医師が話をしているのを聞いていた。

 医師の説明を聞きながら、母親は時々頷きながら返答している。

 車に撥ねられたにも拘わらず、大志はそれほど大怪我を負わなかった。

 衝突のショックで一瞬気を失っていた様だったが、上手く側溝に跳ばされ体がはまり込み、打撲と擦り傷だけで済んだのだった。

 大志が気付いたときは、晴香が必死の形相ではまり込んだ大志の腕を取って、側溝から引き上げようとしていた。

 その晴香は病室の隅で椅子に座り、落ち込んだ顔をしている。

 大志の母は病院からの連絡を受けて飛んできたが、割と元気そうな大志の姿を見て、ほっとしたのか今は落ち着いていた。

 医師は話し終えて、お大事にと笑顔を見せた後、出て行った。


「ちょっと処方箋もらってくるから待ってて」


 大志の母が部屋を出て行くと、大志と晴香は二人になった。

 隅っこで座っていた晴香に大志は目をやる。

 うつむいて明らかに元気がない。今回の事に相当なショックを受けている様だ。

 何か声をかけた方がいいのかなと適当な言葉を選んでいるうちに、晴香の方から口を開いた。


「ごめんなさい」


 晴香はうつむいて肩を落としたままだった。


「謝ること無いって、車が悪いんだ」


 事故を起こした車の運転手は、携帯の画面を見ながら運転していたらしい。


「私、馬鹿だった。先輩なら私が危なくなったら守ってくれるって軽い気持ちで考えてた」


 晴香はスカートの裾を皴になるほど握りしめる。


「先輩、私をかばってこんな怪我して、一歩間違えば死んでたかもしれないのに……」


 うつむく晴香の目から涙が落ちた。


「私本当に馬鹿だった……」


 晴香はずっと顔を上げず、涙をぽろぽろとスカートに落とし続けた。


「気にするなよ。大した怪我じゃないし」


 大志は立ち上がって晴香の傍に行くと、頭をポンポンと軽くたたいた。


「でも、危ない事に首を突っ込むのはもうやめてくれ。心配だよ」


 晴香はそのまま小さく頷いた。


「さあ、もう帰りなよ。俺も母さんが戻ってきたら帰るからさ」


 晴香は促されて涙を拭いてから立ち上がった。


「ありがとうございました」


 うなだれたまま部屋を出て行った晴香を見送り、大志はまたベッドに腰かけて頭の中を整理する。

 死ぬかも知れなかった大事な場面で、あのゴトリという音とキーンという音は聞こえてこなかった。

 大志はどうしてもその事が引っ掛かってしまっていた。



 大志の事故の事を聞きつけて、幸枝は帰宅した大志の部屋にノックもせずに飛び込んできた。

 お互いの家にあまり遠慮せず行き来していた大志と幸枝だったが、タイミングが悪かった。


「あっ」


 その時大志はパンツ一枚で体の打撲痕を鏡に映して見ていたのだった。


「あっ、ごめん」


 幸枝は全部見た後にドアを閉めた。

 大志は急いでトレーナーを着た。


「最低限ノックはしてくれよ」


 ちょっとだけ紅くなりつつ幸枝を部屋に通し、大志は注意した。


「ごめん。大ちゃんが怪我したって聞いてつい」


 心配してくれている幸枝に大志は笑顔を見せた。


「大したことないんだ。まあ、でも心配してくれてありがとう」

「本当に? だって車に撥ねられたって聞いて」

「打ち身と擦り傷ぐらいさ。今見てたんだけど、ホント大したことなかった。柔道の受け身がとっさに出たのかな」


 平気そうな大志の様子を見て、幸枝もやっと落ち着いたようだった。


「なんかごめん」


 幸枝が謝ったので大志は首を傾げる。


「何でゆきちゃんが謝るんだい?」

「だって、私と一緒に帰ってたら、こうはなってなかったでしょ」


 そこに責任を感じる必要など何もないと思うのだが……。


「大ちゃんとこないだ話して瀬尾君の事もっと知って、私の事も知ってもらおうと思って時間作ってたから、ずっと大ちゃんと一緒じゃなかった。だから……」

「ゆきちゃん、考え過ぎだよ。俺の事は気にしなくていいから」

「駄目だよ!」


 結構強めに返されて大志はびっくりした。


「大ちゃんに何かあったら大変だよ。瀬尾君には悪いけど、しばらくは大ちゃんと帰る」

「いや、そんな、車なんて滅多に突っ込んでこないよ」


 幸枝は大志に対して昔から過保護だった。

 仲の良い姉が弟を溺愛するというのは、こういう感じなのだろか。


「いいからそうさせてよ。ね」


 悪い気はしなかったが、瀬尾に対してはうしろめたさを感じずにいられなかった。

 こんな理由で二人の邪魔をしていいものなのだろうか。結構嫉妬しているくせに大志は義理堅いところが有った。


 まあいいか……。


 大志は結局また幸枝に手を引かれるように了承したのだった。

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