スクランブル交差点で突然ビンタされた俺は…
【交差点】の回にてなろラジで読んでいただいたメールから話を拡げて書いてみました。
初投稿です。
「早く、早く回収しなければ…。」
薄暗い部屋で誰かが呟く。
「お疲れ様です。お先に失礼します。」
夜勤が終わり、交代の警備員達の誰に言うともなく挨拶をしながら俺は職場のビルを出た。
朝のラッシュアワーに逆らうように歩き出した俺は、夜勤は時給が良いことだけが利点だけど、これから出勤するであろうサラリーマンを横目に見ながら帰る優越感も利点の1つかななどと考えながらスクランブル交差点で立ち止まった。
信号が青になり渡っていると、向こうから一直線に俺に向かってくる女性がいた。よけようとしたらこっちにくる!
えっ?だれ?と混乱しながら、必死に頭を回転させているうちに、気づいたら左の頬に衝撃がきた。
俺は、ビンタされたようだった。
あまりに突然のことで怒りより可笑しさがこみ上げてきた俺は笑い出し、そのまま笑いが止まらなくなった。彼女は顔をしかめて、笑ったままの俺の腕を引っ張り強制的に歩かせた。
見覚えがあるような無いような道を暫く進むと、ある施設の前に到着した。そこで俺は自分が何者であったかを思い出す…?
「もう!ビンタとか本当に恥ずかしかった!でも、1ヶ月の契約なのにもう不具合が出ちゃったら流石に廃棄ですよね?」
「それがお客様と取り決めた停止方法なんだから仕方ないよ。廃棄は、所長が決めることだから分からないな。」
(この人たちは何を話しているんだ?帰ったら、飯食って、風呂に入って、一眠りしたらゲームの続きやるのを楽しみにしてたのに…。見えて、聞こえているのに、動きたくても動けない、声が出ない。)
「この子、過去にもお客さんを襲ったり、データ消したりしたんですよね?」
「そのせいで過去に何度か業務停止命令受けてるからね。次に何かあったらウチは国から強制廃業させられるしヤバいね。」
「とりあえず、外部記憶データ抜いておきますねー。お客さんが必要なのは勤務時間中の記録だけっていう言われてるし、ビンタの記録早く消したいし。」
さっきの女性が俺に近づいてくる。
(何をする?俺はまさか人間じゃないのか?そんな…嘘だ!嘘だ!嘘だ!うっ…)
ひと月後、顧客には途中でアンドロイドを変更した旨を説明の上、外部記憶データを返却した。
のちに外部記憶を取り込んだ顧客から、記憶取り込み時に何故か涙が出たと報告が挙がったが、アンドロイドレンタル会社は問題無しと判断した。