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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あの海岸で結ばれる

作者: 水沢ながる

「ねえ、守谷さん。覚えてる? この海岸でのこと」

 海岸の風景写真を見せながら言った千秋さんに、僕はうなずいた。

「もちろんですよ。忘れる筈がないじゃないですか」

「なら、話してもらえないかしら? この海岸で何があったのか」

「何がって……ただ、自分の彼女と友人を結びつけただけですよ」


 あの海岸に行ったのは、先週のことだ。僕、同じサークルの一つ先輩の千春さん、友人の田上くん。そこは穴場の海岸らしく、あまり人がいなくて最高のロケーションだった。

 僕と千春さんは付き合っていた。きっかけはサークル内での飲み会でひどく酔っ払った千春さんが僕の部屋へ押しかけて、成り行きでそういうことになってしまい、そのまま同棲を始めたのだ。泥酔から覚めた時は正直千春さんの方も驚いていたけど、結局千春さんも僕との付き合いを承諾した。

 ここだけの話をすると、僕はどちらかと言うと千春さんより彼女の妹の方が好みだった。でも千春さんも負けす劣らずいい娘で、僕らはお互い好きかどうか判らないままずるずると付き合っていた。

 そんな曖昧な時間を過ごしているうちに、千春さんはいつの間にか心変わりしていたようだ。彼女はこっそり田上くんと連絡を取り合っていた。千春さんが僕から離れると言うなら、仕方ない。僕は彼女と別れ、田上くんと結び付ける計画を立てた。

 その舞台になったのが、あの海岸だった。あそこなら内輪だけで遊べる。大声を上げても文句は来ないし、飛び込みに最適の崖だってある。僕はサプライズとして二人を引き合わせ、結びつけた。絶対に離れないように願いながら。


「あなたは、千春ちゃんを捨てたの?」

「捨てた? まさか。二人が共にあるようにしたんですよ。二人とも、僕に感謝してると思いますよ」

 千春さんが僕から離れて、少し寂しく思う時もある。でも、思い出は残っているし、二人で撮った写真だってたくさん残っている。

 千秋さんは少しだけ首を振った。

「守谷さんの認識では、そうなのね」

 僕の認識? 何だかおかしなことを言う。

 と、千秋さんのスマホが鳴った。少しだけ誰かと何か話をして、千秋さんは話を再開させた。

「この海岸、地元では自殺の名所として知られてるのよ。そして、二人には捜索願が出てるの」

「……二人が、心中したとでも?」

「いいえ。私は、もっと悪いことが起きたと思ってるわ」

 千秋さんは、何枚かの写真を取り出した。僕と千春さんの写真だ。

「ごめんなさいね。あなたのパソコン、ハッキングさせてもらったの。これ、千春ちゃんよね……あなたにレイプされているのは」

 それはまさしく僕と千春さんとが結ばれた時の写真だった。これを千春さんに見せたから、僕は彼女と一緒にいられたんだ。

「あなたは彼女を飲み会で酔い潰し、部屋に連れ込んでレイプした。その時の写真をネタに彼女を脅し、半ば監禁していた。千春ちゃんは妹さんに危害を加えられるのを恐れてあなたの言いなりになってたけど、こっそり田上さんに助けを求めていたのね。元々二人は恋仲だったみたいだしね」

 千春さんと田上くんは一緒に僕から逃げようとした。だから僕は、田上くんをあの海岸へ呼び出して、千春さんを連れて行ったんだ。僕から逃げるのなら、せめて二人を結びつけておきたかった。あの世まで一緒に行けるように。

「私、地元の警察にもコネがあるの。あの海岸に飛び込んだ遺体は、一週間程すると近くの浜に流れ着くんだそうよ。……二人の遺体も発見されたって、ついさっき連絡があったわ」

 千春さんの妹が雇った千秋航平さんという名前の探偵は、とても優秀だったようだ。オネエ言葉を使う変なおっさんだけど。

「あなた、確かに千春さんと田上さんを離れないように結びつけたのね。……本当に残酷だわ」

 千秋さんは僕を見据えて言った。


「先に殺しておいた田上さんの遺体を、重り代わりにしっかり千春さんの体に結びつけて、崖から突き落とすなんてね」

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― 新着の感想 ―
[一言] 拝読しました。 色々と仕掛けてあって、面白かったです。 読者としても騙されました。 なんともいえない結末…“思い込み”って、怖いですね。
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