クリスマス!
「ただいまー」
今日はクリスマス。
更に言えば、某ウィルスの影響で例年より早い仕事納めでも有る。
クリスマスと同時に今年の業務も終了とか、今までに無いパターンに違和感を感じつつも、少し浮かれ気味な自分が居る。
ルミは確か、31日の深夜まで駆り出される事になっていたはず。
自粛自粛と言われてはいるけど、やはり正月と言えば初詣。そうじゃ無くても正月くらいはと着物を着る人も増える訳で、合わせて髪をセットする人も当然増える。
そんな訳で、ルミの仕事納めは年の変わる直前辺りになりそうなのだ。
一緒に年越しは無理かな? いや、ルミの仕事が終わるのに合わせて外で待ち合わせればギリ行けるかも……
その分、代休と称して今日と明日に休みを入れる辺り、ちゃっかりしている。
「おかえりー、今ちょっと手が離せないから。ケイコの分は寝室に置いて有るからね!」
リビングからルミの声が聞こえる。
私の分って……まあ予想はしてたけど、やっぱりコスプレさせる気ね。
まあ今日くらい、付き合ってバカやってあげても良いけどね。ルミも随分楽しみにしてたし。
「シャワー浴びて行くから、ゆっくりで良いわよ」
ルミに一声掛け寝室へ行くと、ベッドの上にリボンの掛かったカラフルな袋が、これ見よがしに置いて有った。
素直に考えればクリスマスプレゼントなんだけど、コレが私の分なんでしょうね。
袋と替えの下着を手にし、バスルームへ。
私も何か手伝おうかな?
そんな事を考え、手早くシャワーを終わらせて脱衣所に戻る。
バスタオルを巻いた状態で髪を乾かし終え、プレゼント袋に手を伸ばす。
さて……
袋のリボンを解き中身を取り出すと、先ず出て来たのは角の付いたカチューシャ。
茶色のディフォルメされた木の枝みたいな角、うんトナカイの角ね。
次に出て来たのは、輪ゴムが二つ付いたスポンジ製の赤い玉。
あ〜ハイハイ、鼻ね。
別にトナカイの鼻って赤くは無いんだけど、何で赤いイメージが定着してるんだろ?
まあ先ず間違いなく、あの歌のせいだろうけど……
少し気になったので、先生に聞いてみようと思いスマホを起動。
なになに? 『トナカイは鼻粘膜の毛細血管の密度が高く、血管が充血したとき鼻が赤く見える』
へ〜、一応事実に基づいた歌だったのね。流石に赤く光ったりはしないだろうけど。
取り敢えずその二つを身に付け、恐る恐る鏡を覗き込む。
うわ……無いわ〜
変なカチューシャと変な付け鼻をし、仏頂面を晒した鏡の中の私は、おおよそトナカイには見えない。
コスチュームも身に付ければ、それっぽく見えるのかな?
袋に手を突っ込み、最後のアイテムを取り出すと……
何これ……
ミョーン。
何これ!
ミョーンミョーン。
「なにこれー!!!」
ミョーンミョーンミョーン。
私の手の中で伸び縮みする、うっすい素材で出来た全身タイツを眺め思わず絶叫してしまう。
こんなの着たら裸も同然じゃ無いの!
しかも、茶色と言うよりベージュに近い色合いは、余計素肌を連想させる。
「なになに、ケイコどうしたの?」
私の叫び声を聞き付けたルミが、脱衣所の扉の向こうから声を掛けてくる。
「こんなの着れるわけ無いでしょ!」
「え〜、トナカイを選んだのはケイコだよ? もう直ぐご飯出来るから急いでね〜」
パタパタとリビングに戻る足音を尻目に、私はガックリとその場に膝を付く。
やられた……クソー! ルミめー!!
もっと着ぐるみみたいのが出て来ると思ってたら、まさかの全身タイツとは。
……はぁ、まあ誰に見せる訳でも無いし、いやルミには見られるけど。確かにトナカイを選んだのは自分だから、文句も言えないけどさ……
渋々では有るけど、何とか自分を納得させ全身タイツを着ようとするが……
……どうやって着んのよ、これ。
裏返したり、ひっくり返したりして構造を確かめると、どうやら背中が開いていてそこから身体を入れるらしい。
因みに背中の開口部は、首筋のボタン一つで留めるらしく何とも心許ない。
先ずは脚からか。
ストッキングを履く要領で、生地を丸め足先を突っ込んで引っ張り上げていく。
腰の辺りまで完了し一度確認すると、上半身部分が前にダラリと垂れ下がり、やや不気味に見える。
にしても……
きっつ! これサイズ合ってんの?
ピチピチになったタイツ姿の下半身は、既に血行が悪くなっているんじゃ無いかと思うくらい締め付けられている。
商品タグを確認すると、レディースのMとなっているので一応合ってる。
これは、こう言うもんと思うしか無さそうね。
……私の脚が特別太い訳じゃ無いよね?
次は上半身。
若干前屈みになりながら両袖を通し、グイッと身体を起こせば難なく完了。
最後に首筋のボタンを留めて出来上がり。
これで私も立派なトナカイに……
いやこれ、ただの変な人だわ。
マジマジと鏡を眺め、フゥ……と一つため息。
あまり考えるのよそう、後は開き直ってクリスマスを楽しみましょう。
仕上げに角や鼻の位置を確認している時に、はたと気がつく。
あ〜そうか、そりゃそうだよね……
薄い生地にはクッキリと、下着のラインが浮かび上がっているのに気が付いてしまったのだった。
✳︎
「ルミ、入るわよ?」
すりガラス越しに見えるリビングは、何故か照明を落とし薄暗くなっている。
ドアを開けて中を覗くと部屋の中央に置かれたコタツの上には料理が所狭しと並べられ、クリスマスケーキに立てられたロウソクが淡い光をチラつかせている。
部屋の中もクリスマス仕様に飾り付けられ、隅に置かれた小さなツリーからもカラフルな光が放たれていた。
コタツでクリスマス。何とも日本らしい、和と洋の見事なコラボレーション。
それにしても、毎度の事ながら良くやるわね〜
関心半分、呆れ半分では有るけど、あの子の全力で楽しもうと言う気持ちは十分伝わって来る。
それはそうと、ルミは何処行ったのよ……
部屋の中にルミの姿は無く、キッチンも暗いのでそちらに居るとも思えない。
取り敢えず待ってれば良いかな?
リビングへ入り後ろ手でドアを閉める。
エアコンの効いた室内は暖かく、今現在異常な薄着の私にとってはかなり有難い。
いつもの場所へ座ろうとした瞬間、今閉めたばかりのドアが勢いよく開かれる。
「メリークリスマース!」
パパパン!!!
「ひぅっ!?」
背後から掛かる能天気な声と炸裂音、そして飛び散る紙テープが私の頭に降り注ぐ。
すっかり油断していたおかげで、変な声が出てしまった。
固まった表情で後ろを振り向くと、サンタルックに身を包み白い髭まで蓄えたルミが、音の元凶で有るクラッカーを片手に立っていた。
「な、ななにすんのよ」
「ふぉっふぉっふぉ。驚いたかな?」
サンタになりきり髭をさすりながら、得意顔を向けて来るルミサンタ。
「驚いたわよ! って言うかあんたその格好……」
「ん? サンタだけど?」
それは言われなくても分かる。
どっからどう見ても立派なサンタだよ、ミニスカサンタとかじゃ無く正統派のね!
「私にはこんな恥ずかしい格好させといて、あんたはそれ!?」
「え〜だってトナカイ選んだのは……」
「そうよ! 私よ!」
しかし、考えてみれば衣装を用意したのはルミなので、どっちを選んでも同じ結果になっていた気がしなくも無い。
「それはそうと……」
「なによ」
「えっちいね、それ」
「あんたが用意したんでしょ!」
う〜ん、と指を顎に当て何やら思案顔のルミだったが、突然……
「ケイコにばっか恥ずかしい格好させるのは悪いから、私も脱ぐね!」
そう言い上着の前をバッと肌ける。
「ちょっ! 何を……」
身に付けていた上着、ズボンを脱ぎ付け髭も外すとポイポイ放り投げる。
「じゃじゃーん。こっちが本命でしたー」
ポーズをとって見せるルミの姿は、赤い生地に白いファーの飾りが付いたブラと、お揃いのショーツ。
ブラはルミの大きな胸を支えるには頼り無い程の布面積しか無く今にもはち切れそう、ショーツもサイドが紐になっているので、とんでも無く露出度が高い。
って言うかエッロ!
「どお? かわいいでしょ」
確かに可愛いんだけど、エッチ過ぎて顔が赤くなって来るのが自分で分かり、つい手で顔を隠してしまう。
「可愛いけど、それ下着よね?」
「コスだよ! サンタコス。パンツじゃ無いから恥ずかしく無いもん!」
どっかで聞いたことの有るセリフを言いながら、大きな胸を張って答えるルミだけど、どう見ても下着だから。
「さーパーティーの始まりだよー。座って座って!」
グイグイ私の身体を押して、コタツに押し込んで来るルミだが……
む、胸! 胸当たってるから!
余りにも無防備なルミの胸が、事あるごとに私の背中に押し付けられて来る。
「ん〜?」
一旦離れたルミが、私の背中をジロジロ眺め、
「ねえ、ケイコ。もしかしてノーブラ?」
ビクッ!!!
咄嗟に胸元を隠し振り返ると、ニマニマと悪い笑顔を浮かべるルミの姿。
「だ、だって下着のライン出ちゃうから……」
恥ずかしくてルミと目を合わせられない、ルミの格好をとやかく言ったけど、私の格好だって大概なのを思い出したからだ。
「へ〜そっか〜そうだよね〜、先っちょは? ニップレス?」
何故か手をワキワキさせながら、ジリジリと距離を詰めて来るルミ。
「そんな気の利いた物無かったから……絆創膏で……」
「んふっ! も〜ケイコったらー!」
「ひゃん!」
ガバッと後ろから抱き着かれ、私の胸にルミの両手が迫ったかと思うと、下から掬い上げる様に揉みしだかれる。
「つまり、この薄い布の下はほぼ生乳ってわけね〜ケイコってば、や〜らしいんだ〜。あっ! もしや!」
胸から離された手が、今度は私のお尻を撫で回す。
「ダメだってばルミ! そんなとこ触っちゃダメ……んんっ!」
身をくねらせルミの手から逃れようとするが、先程から良いだけ身体を触られたせいか、力が入らない。
「やっぱり……下も穿いて無いんだ」
「だって……」
「そうよね〜下着のライン出ちゃうもんね〜」
ルミが私の背中にしなだれかかり、耳元に口を寄せて来る。
「ケイコのエッチ」
「あっ……」
耳に感じたルミの吐息と、いつもと違う少しトーンを落とした艶かしい声、それに混じって漂うアルコールの香りに、つい身体が反応してしまう……って!
「酒臭! あんたもう飲んでるの!?」
「うん〜? 料理作りながらチョットだけね〜」
ケタケタ笑いながら答えるルミだったが、私はシンクの上にズラリと並べられたビールの空き缶を見逃さなかった。
「あれの何処がチョットよ! それによく見たらあんた顔真っ赤じゃない!」
最初は付け髭で良く見えず、その後は下着姿に流石のルミも照れてるものと思いきや、実は酔っ払って赤くなっていただけだったのだ。
「ん〜ほら〜、飾り付けしたり料理作ったりしてたら気分盛り上がっちゃって〜、でもほら! ちゃんと準備はしたんだよ、褒めて褒めて!」
先程までの艶っぽさは何処かへ吹っ飛び、今度は子供のように甘え私に頭を突き出して来る。
「ハイハイ、頑張ったわね。偉い偉い」
「むふふ〜♪」
頭を撫でながら、感情の籠らない声で褒めてあげるけど、そんなでも本人は満足そうだ。
チョット悪ふざけは過ぎたけど、まあ頑張ってくれたのは本当だしね……
「ルミ、有難う。あなたが毎回頑張ってくれるおかげで、私も楽しいわ。これからも宜しくね」
「うん、ケイコが喜んでくれるなら私も嬉しい。だから次も頑張るね」
えへへ〜っと笑いながら立ち上がったルミは、いつもの自分の定位置に座り、二つのグラスにシャンパンを注ぐ。
「じゃあ始めよっか!」
「ええ」
「「メリークリスマース!」」
✳︎
「プレゼントは、わ・た・し」
ベッドで横になった私の前で、素肌にリボンを巻きつけたルミが身をくねらせる。
それ自分でやったの? 器用ね……
「またバカな事を……寒いでしょ? 早く布団に入りなさい」
「む〜これから始まる性の六時間だよ〜」
そそくさと布団に潜り込んで来たルミが、唇を尖らせ不満を漏らす。
「それはイブから25にかけての事で、とっくに終わってるわよ。来年まで持ち越しね」
私が悪戯っぽく言うと、ルミが捨てられた子犬の様な表情をする。
「ら、来年までお預け……。本当にしないの?」
上目遣いでそう言われては、私の理性も簡単に崩れ去る。まあ、元よりチョット意地悪言ってみただけなんだけど。
「しない……とは言ってないわ」
「わーい、ケイコ大好き愛してる」
「ハイハイ、私もよ。で、このリボン自分で巻いたのよね? どうやったのよ」
「ちょっとしたコツが有るんだよ! え〜とね……」
私達のクリスマスは、まだ終わらない。