1日遅れのハロウィン
「とりっくおあとり〜と〜」
仕事から帰ると、奇妙な格好をしたルミが変なテンションで迎えてくれる。
「ナニ? その格好……」
ルミの格好は、部屋着にしているネコの着ぐるみ? まあ着ぐるみと言っても、三毛猫っぽい柄にネコの顔が描かれたフードが付いてるパーカーなんだけど。
あ、耳と尻尾も付いてて可愛い系のルミには良く似合ってる。
で、ルミ自身はと言うと、顔を青白く塗っていて、所々赤い血の跡みたいなのが描かれ、下半身は素足にまばらな包帯が巻かれていた。
「え〜と、ネコゾンビ?」
「何で疑問形なのよ。自分でやったんでしょ?」
って言うか、そのメイクちゃんと落ちるんでしょうね?
「大体ハロウィンは昨日でしょ?」
「うん。でもほら、ケイコ日曜出勤だったから、一日延期したの! なので今日はハロウィンパーティーだよ!」
どうやら、ルミなりに気を使った結果みたい。実際、次の日仕事だと思い切り羽目を外せないし、そんな気にもなれない。
そして明日は、日曜出勤した分の代休……
「だからって、普通の日にやるってのはどうなの? 来年でも良かったんじゃない?」
どうせこの後も、クリスマスやら正月やらのイベントは有るんだし。
「え〜、ここに越して来て初めてのハロウィンだよ〜? 楽しみにしてたんだよ〜……」
胸の前で手を組み、潤んだ目で見上げて来るルミ。ピンと立っていた耳も、心なし元気を失ってペタンと寝てしまっている。
うっ! そんな、ウルウルした目で上目遣いとか反則だから!
「わ、分かったわよ!」
「やったー! じゃあこれ! ケイコの分ね」
再び元気を取り戻し、ピンと立った猫耳、尻尾も嬉しそうにユラユラ揺れている。
えっ! それ、どう言う仕組み!?
ルミに手渡された、某ペンギンキャラのお店の袋を開けると、ルミとお揃いのネコパーカーが入っていた。
「私には似合わないって、前言ったじゃん」
私は小柄なルミに比べ背も高く、しかもスレンダーと言うか何というか……女の子らしさが余り無い残念な身体付き。
ルミの様に、全体的に女の子らしい、可愛い成分で出来てる訳じゃ無いのだ。
「そんな事無いニャ〜、それにルームウェア何だから良いじゃニャイ」
ネコになり切ってるのか、怪しい語尾を付けながら喋るルミ……うん、かわいい。
こういう時、ルミの事がチョットだけ羨ましくなる。
見た目が可愛いとか、そう言うんじゃ無く、いや可愛いんだけど。
こう言ったイベントに積極的で、心の底から楽しもう、そして私を楽しませようとする姿勢がだ。
正直、私一人だったらハロウィンなんて、何もせず過ぎ去っていた。
「さあさあ、着替えてリビングに集合だニャ」
「本当に着なきゃダメ?」
「ダメニャ〜、それ着ないと晩御飯無しニャ!」
「くっ! 分かったわよ……」
やや強引に押し切られる、ネコパーカーを着る事になってしまったが……
折角くれた物を、無下にするのも悪いし。
そりゃ、私だって可愛いものは好きだし?
着てみたいか、と聞かれれば興味は有る訳で……
等と、自分に対する言い訳をアレコレ考えてる間に着替えも終わり、言われた通りリビングへ向かう。
ドアを少しだけ開き、頭だけを覗かせ中を伺うと、ルミが鼻歌混じりに料理を並べている所だった。
部屋の中はハロウィンらしい、紙を切り抜いて作った、カボチャやらコウモリやらでデコられ、壁には大きく“happy halloween”と、これまた切り抜き文字で飾られていた。
これを一人でやったと思うと頭が下がる。
本当、ルミって何事にも一生懸命よね……
「どうしたのニャ? そんな所に突っ立って」
「あ、うん。チョット恥ずかしいかなって」
私の言葉を聞いてニマ〜と笑うルミ。
「恥ずかしくなんか無いニャ! 早くこっち来て座るニャ!」
私の手を掴み、グイッと部屋に引っ張り込む。
「うあ、ちょ、ちょっと!」
「にゅふふ〜やっぱり思った通り、ケイコ可愛いニャ!」
全身露わになった私を見て、それはそれは嬉しそうな顔をするルミ。
「ケイコは可愛いんだから、もっとそう言う格好もするべきだよ! じゃ無かった、するべきニャ!」
「うう……」
私はフードを目深に被り、顔を隠す。きっと真っ赤になっているだろうから。
「それと、語尾は“ニャ”だからね!」
「そ! そんな恥ずかしい事言えない……」
「ん?」
グイッと、私に顔を寄せて来る。
「言えな……」
「んん?」
「……ニャァ」
「にゃふー! ケイコ可愛い! 大好き!」
興奮したルミが突然私に抱き付き、胸元にグリグリと顔を擦り付けて来る。
「あ〜もう、可愛いのはアンタよ。さあ食事にしましょ」
私の事を不満そうな顔で、じ〜〜っと見つめるルミ。
「……食事にするニャ……」
「分かったニャー!」
は〜もう……良いわ! ここまで頑張って準備してくれたんだもの。私も楽しむ事にする!
「今日のご飯は何かニャ?」
「今日は〜カボチャのスープと〜パンプキンパイ。ケイコの好きなデザートワインも買って有るからね! そして、食後にはクッキーも焼いて有るニャ!」
相変わらずの女子力。料理とか、カラッキシの私とは違う。
「あれ? でもアンタ明日仕事じゃ無いの?」
アンタお酒、弱かったわよね?
「今日の為に休み入れたニャ!」
ホント、貴方は凄いわ……