夏休みとは
宿題は最初の一週間でやっつけ、時間はたっぷりあったはずなのだが、気付けば夏休みも残りわずかになっていた。
「・・・なーんも夏休みらしい思い出ないんだけど」
俺こと西山直哉は高校2年生の夏休みがひどい黒歴史にならないようにどこかへと出かけようとした。
しかし本日の最高気温38度。本当に夏は終わるのだろうかと疑問に思ってしまうほど暑い。
「わざわざこんな日に出かけなくてもいいじゃないか・・・・・・うん?」
なーんて思っていたのも束の間、スマホを見ていたら恐ろしい事実が判明する。
「はちがつさんじゅういちにち???」
そう、今日は8月31日。夏休み最終日なのだ!
冒頭で夏休みも残りわずか、と言ったが俺の日付感覚がおかしくなっていたらしい。わずかどころか今日で終わりじゃん。
「・・・マジ?今日で終わり?夏休みはたくさん時間あったのに何してたんだ俺」
よーく思い出してみよう。
序盤俺『暑い...出かけたくない...』
中盤俺『海やら祭りやらは人多いし人海は人が減ってから行こう』
終盤俺『海はクラゲ出てるし危ないから行くのやめよう』
・・・をい。
何かと言い訳をして家から出ようとしてないじゃん俺。
なんなら序盤と今の言い訳全く同じじゃん。そりゃ夏休みの思い出がアニメ見てた事しかないわけだ。
とはいっても最終日。夏休みらしい思い出作りができるイベントはとっくに終わっているのでどうしようもなかった。
―――まあそんな感じで夏らしい思い出が何もないまま二学期を迎えてしまった。
「花火大会めちゃくちゃよかったなー」
「海行ったら日焼けしちゃってさー」
「遊びすぎて宿題やってなくて昨日徹夜したw」
などなど、クラスメイト達はそれぞれ夏休みの思い出を披露しあっていた。
「いいよなぁみんな。夏休みしっかり満喫してて・・・くそっ、やっぱ俺も海くらいは行けばよかった・・・」
「どうしたんだよ、そんな苦虫を噛み潰したような顔をして」
「いや、過去の自分を恨んでいるだけだ気にするな。それでなんの話だっけ?」
「そうそう。で、どうだった、エン〇レスエ〇ト88時間生放送!俺頑張ろうと思ったんだけど8時間で寝落ちしちまってさー」
「俺の勝ちだな雪也。俺はモ〇エナとコーヒーのおかげで19時間だ!」
「そこまでやるのかよ!?」
思い出なんてほとんどない俺は友人の南雪也と夏休み前と変わらずアニメの話で盛り上がっていた。
「そういえば姉さんに聞いたんだけどさ、今日転校生来るらしいぞ」
「ここの教師をしてる春奈さんがそれ言っちゃってコンプライアンス大丈夫なのか・・・ってのはともかく、なんでこんな田舎に転校生なんか」
雪哉には7歳年上の春奈さんというお姉さんがいる。
昔は雪也といっしょによく遊んでくれていた。春奈さんの大学進学をきっかけにしばらく会っていなかったのだが、今年の春、俺たちが通う高校に赴任してきた。
「まあそう言うなって。なんてったって転校生は女の子らしいからな!」
「あのなぁ・・・テンションが上がるのはわかるが現実を見ようぜ」
「なんだよ現実って?」
「転校生が女の子だったとしても、夏休みをどこにも出かけずに過ごしていた俺ら引きこもりオタクにチャンスなんてあるわけないだろ!」
・・・自分で言ってて悲しくなってきた。泣きそう。
「そりゃそうだけどさ、やっぱテンション上がるだろ!女の子の転校生ってさ!」
「ぐッ...確かにオタクなら転校生設定はテンション上がるけど...!」
「リアル転校生に設定とか言うなよ・・・」
まあこんな感じで転校生の話題で盛り上がって?いた。しばらくすると教室のドアが開き、
「みんな席ついてー」
「っとホームルームか、また後でな雪哉」
担任教師が入ってきたので、雪也との話を切り上げて自分の席に戻った。
「えー、ホームルームを始める前に今日は転校生の紹介をします。」
転校生、というワードを聞いた瞬間クラスが少しザワついてきた。そりゃ転校生なんて珍しいからね。
「どうぞ、入ってきて」
教室のドアが開き
「北森真桜です。神奈川県から来ました。よろしくお願いします」
「それじゃあ北森さんの席は・・・窓際の一番後ろの席が空いてるからそこに座ってね」
結構淡々とした自己紹介だった。てか、俺の隣の席じゃん。
離れた席に座っている雪哉が羨ましそうにこちらを睨んでいた。いや、そんな目で見られても。
自己紹介が終わり、俺の横の席に座った転校生・・・北森さんは小声で俺に、
「よ、よろしく...」
ちょっぴり照れながら、しかしちょっぴり笑顔で挨拶をしてくれた。
この照れた笑顔と、先ほどの淡々とした自己紹介のギャップに少しドキッとしつつも、
「こ、こちらこそよろしく」
と、俺も挨拶を返した。
三次元でギャップ萌えを体感することになるとは思わなかったなぁ。
恐るべし転校生・・・!!
「――――じゃあ、この後始業式だからみんな遅れないように体育館に来てねー」
ホームルームが終わり、みんなが体育館へと向かう。
「北森さん、だっけ」
「は、はい」
「えーっと、体育館までの行き方分かる?」
「だ、大丈夫です」
「な、ならよかった。何かわからないことあったらいつでも聞いて」
「あ、ありがとうございます」
まだ緊張してるようで、こっちまで緊張してしまう。
とりあえず俺も体育館へ行くか。
・・・なーんか嫌な予感がするなぁ。