喫茶店でほのぼの(中編)
雪奈さんに髪を整えてもらった後、溜息をつきながら淳たちの元に向かった。3人は何か話しているようだが何を話しているのかは分からなかった。
俺が近づいてきたことに気付いたのか3人は視線を揃ってこっちに向けた。そして、俺の格好を見るなり淳と澪は口元をニヤけさせ、高崎は呆けたような表情をしていた。
「・・・なんだよその顔は。」
俺は淳と澪のニヤけ顔が気に食わず突っ込んだ。
「「べっつに~~」」
二人は尚もニヤケ顔をやめようとはしなかった。
「駄目だよ、翔斗君。今の翔斗君は店員さんで私たちはお客さんなんだからね?」
実力行使に出ようと足を前に出すもそれを予想していたかのように澪に言いくるめられた。
「そうだ、そうだ~。」
淳もそれに悪乗りしてきた。
(ウゼェ・・・。)
「どうしたの舞ちゃん。」
すると、澪が黙ったまま何も話さない高崎に声をかけた。
「えっ?・・・う、ううん。なんでもないよ。」
高崎は何事もなかったかのようにいつもに笑みを浮かべた。
「それにしてもその格好やっぱり似合ってるよね。」
笑いが収まったのか淳がそんな話を振ってきた。
「お前に言われても嫌味にしか聞こえねぇよ。」
「まぁまぁ、拗ねないでよ。」
俺が不機嫌そうに言うと淳は俺を宥める様に声をかけてきた。
「うん、でもやっぱりその格好はお世辞なしにすごく似合ってるよ。」
澪が可愛らしい笑顔でそう言ってきた。その可愛らしい表情を見た俺は思わず顔を赤くした。
「あぁー、翔斗が照れたー。」
淳がまた何か言っているがもう気にしないことにした。
「ほら、舞ちゃんも何かないの?」
澪は黙っている高崎に話を向けた。
「う、うん。すごく似合ってると思うよ?」
「何故、疑問系なんだ?」
思わず突っ込んでしまった。
「ふむふむ、その様子から察するに僕と澪がかなりカッコいいと言うものだから多少なりとも期待して待っていたら想像以上に外見が変わっていて戸惑っている、と言う感じかな?」
口数少なめな高崎を見て、淳はこう言った。
「うん。正直、お世辞とか抜きにとても似合ってると思うよ。」
高崎はいつもの笑顔は見せず、真顔で言った。
「お、おぅ。ありがとな。」
俺は高崎の顔を直視できず、顔を逸らしながらお礼を言った。
「じゃあ、店員さん。注文お願いしま~す。」
「店員さんって俺のことか?」
「もちろん。」
「・・・お客様、ご注文をどうぞ。」
俺は接客スマイルを浮かべてそう聞いた。ちなみに、この接客スマイルはいつも淳が浮かべている爽やかスマイルをお手本にしたものだ。
「僕はいつも通りオムライスとカフェオレで。」
「じゃあ、私は紅茶とチーズケーキで。」
「私も紅茶とショートケーキで。」
と、淳・澪・高崎の順番でオーダーを言った。
「ケーキは少し時間がかかりますがよろしいですか?」
俺の質問に2人は首を縦に振った。
「では、少々お待ちを。」
そう言い、俺は厨房に向かった。
厨房でケーキとオムライスを作っていると、雪奈さんがやってきた。
「大変そうだね、手伝おうか?」
「正直、助かります。」
さすがにケーキを作りながらオムライスを作るのは無理があった。この店はケーキを手作りで提供するため手間をかけて作っている。そして、ケーキを作るのにはかなりの集中力を必要とするため同時にオムライスを作るのは実際、きつかったので手伝ってもらえるというのはまさに渡りに船だった。
「「・・・。」」
そこから先は特に話すこともないのでお互い無言だった。
「そういえば、進級してどうなの?」
ケーキの仕上げの作業をしていると雪奈さんが突然、そんなことを聞いてきた。
「前と変わらずですかね。」
俺は特に隠す必要もないので素直に話した。
雪奈さんは俺が学校でどんな扱いを受けているのか知っている。だから、心配して声をかけてくれたりするのだ。俺はこの人を『根が優しいツンデレ』だと思っている。
「辛くなったらなんでも言ってね、相談に乗るから。」
「うっす。」
そこからはまた無言になった。
「こっちは完成したよ、そっちは?」
「こっちもあと少しですね。」
会話が終わってから料理が出来るまで10分ほどかかってしまった。あいつらは今頃、飲み物を飲み終わってしまっているだろう。
(おかわりもサービスしてやるか。)
「何してるの?」
そう考え、カフェオレと紅茶を用意していると雪奈さんがその行動を不思議に思ったのか聞いてきた。
「いえ、ちょっと待たせちゃったしサービスを。」
そういうと同時に俺は飲み物を入れ終わった。
「運ぶの手伝うよ。」
「ありがとうございます。」
トレーに乗っけてから俺たちはそれを持って淳たちの元へ運んだ。
「おっ、来た来た。」
「「わぁ~。」」
淳が待ってましたと言わんばかりに言うと、澪と高崎もこっちに視線を向け表情を輝かせた。
「お待たせいたしました。こちらご注文のオムライスとチーズケーキとショートケーキです。そして、こちらはサービスでございます。」
俺は接客スマイルを使いながら、そう言った。