佐々木による尋問(前編)
修学旅行が終わった後のある日の休日、俺は何故か佐々木に呼び出されて公園に来ていた。
「お待たせ。」
俺が公園のベンチでのんびりしていると佐々木がそう言いながらやってきた。服はもちろん私服だ。
「いや、そんなに待ってない。」
俺も無難に答える。
「そう?なら、よかった。」
佐々木は安堵したようにそう話すと、俺の隣に腰を下ろした。気のせいか前にデートした時よりも距離が近く感じられる。
「・・・はぐらかす必要もないから単刀直入に聞くよ。田宮君、彼に何かした?」
佐々木の言う『彼』というのは十中八九あの自称3年生君だろう。
「特に何もしてないが?」
わざわざそんなことを明かす必要もないので適当にはぐらかす。ふと、佐々木の方に視線を向けると佐々木はジト目でこちらを見つめていた。
「・・・。」
ここで目を背けたらダメな気がし、俺も負けじと見つめ返す。
「・・・。」
「そっか。それじゃあ、これは一体どういう事かな?」
すると、今度は携帯の画面を俺に見せてきた。そこには佐々木とあの自称3年生の会話が残っていた。
自称3年生『琴音、少しいいか?』
佐々木『・・・何?』
自称3年生『今まで迷惑かけてすまなかった。』
佐々木『どういうつもり?』
自称3年生『言葉通りの意味だ。』
佐々木『なんでいまさらそんなことを・・・。』
自称3年生『教えられたからな。別に選ばれなくたってチャンスがなくなったわけじゃないってな。』
佐々木『そう。ちなみに、それは誰から教えてもらったの?』
自称3年生『田宮だよ。』
佐々木『まっ、好きにすればいいんじゃない?私はあんたの事もう嫌いだけど。』
自称3年生『わかってるよ。それと彼に「殴ってすまなかった」と伝えてくれると助かる。』
佐々木『話の内容がつかめないけど一応、分かった。』
俺はその会話を読み終えた後、うつむいた。
(・・・余計なことを。)
「これを見ても、まだ逃げられると思ってるのかな?」
それに対して、佐々木はさらに下から俺の顔を覗き込んでくる。
「さぁ、全部話してもらいましょうか。」
俺は観念してあの日のお節介をすべて話した。
「そっか・・・。」
それを聞いた佐々木の反応は予想していたよりも淡白なものだった。その表情からは感情の機微が読み取れない。
「感謝したほうがいいのか、危ないことをしたのを怒ったほうがいいのかわからないな。」
佐々木はあからさまな苦笑いを浮かべながらそう呟く。
「別に感謝とかを求めてやったわけじゃないから気にするな。」
「そう言われても・・・困るよ。」
フォローのつもりで言った言葉も逆効果だったようで佐々木は先ほどの俺と同じようにうつむいてしまった。その体は細かく震えていた。
そして、次の瞬間。俺の内心は焦りで埋め尽くされることになった。
「えっ?」
佐々木は泣いていた。声を押し殺して泣いていたのだ。
「ひっぐ・・・なんで。」
「お、おい。」
俺はどうしたのか肩を叩こうと手を伸ばすがその手は佐々木の手によって叩かれた。
「なんで怒らないの!?」
佐々木は怒鳴り始めた。
「何を言って・・・」
俺は突然の豹変に呆然とする。
「私が田宮君を利用していることを田宮君は気づいていたでしょ!?なのに、なんで怒らないの!?」
そこでようやく俺は佐々木が何を言わんとしているのか理解した。
佐々木は俺が怒るのを待っていたのだ。しかし、いつまで経っても俺が何も言わないからどうすればいいのかもわからなくなってそれが今に至ったのだ。
「いや、俺も利用されていることになんか気づいていなくてだな・・・」
「嘘だよ!!」
なんとかしてなだめようとするもその目論見は佐々木の涙声によってかき消された。
「田宮君は私が田宮君を利用していることなんてデートの約束をしたあのメッセージのやり取りの時点で分かっていたはずだよ!」
事実だった。俺はあのメッセージのやり取りの時点で佐々木の意図に気付いていた。気づいていたうえでその話に乗った。
「なんで怒らないの!?何で何も言わないの!?言ってくれないとわからないよ!」
佐々木は自分なりに俺を利用していくことに罪悪感を感じていたのだろう。それが積もりに積もって爆発してしまった。
「・・・じゃあ、歯喰いしばれ。」
俺はその言葉と共に手を振り上げる。佐々木はそれを見てギュッと目をきつく閉じる。
はい、こんにちは作者です。大事なお知らせです。
これからは1話ごとの文章を長くする代わりに週二日投稿にしようと思います。長くした方がやりやすいというのが一番の理由です。
ご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありません。これからも本作品をよろしくお願いします。




