喫茶店でほのぼの(前編)
「翔斗、今日の放課後は空いてる?」
昼休みに俺・淳・澪・高崎の4人でご飯を食べていると、淳が急にそんなことを聞いてきた。
「空いてるが、どうしてそんなことを聞くんだ?」
「うん、前に4人でご飯を食べようって話があったでしょ?それを今日どうかなって話。」
淳は話題の趣旨を話した。
「あぁ、そういえばそんな話あったな。」
そこまで言われてようやく俺は思い出した。
「澪と高崎は大丈夫なのか?」
「うん、先に確認しておいたからね。」
ふと疑問に思ったことを聞くと淳がそれを予想していたかのように即答した。黙って話を聞いている澪と高崎も首を縦に振っていた。
「分かった。今日の放課後に行くか。」
そして、昼休みはお開きになった。
放課後、俺たちは4人で一緒に歩いていた。
ただ、話をしながら歩いているだけなのに淳も澪も高崎もそんじょそこらではお目にかかれないレベルの少年少女なので周囲からなにかと視線が集まっていた。
「・・・鬱陶しいな。」
俺はさすがに我慢の限界が来た。
「あはは、翔斗らしいね。」
淳が持ち前の爽やか笑顔を浮かべて言った。
「でも、さすがにこれはねぇ?」
「うん、ちょっとしつこいかな。」
高崎と澪も俺の言葉に同意した。
「そういえば、どこに行くつもりなんだ?」
「翔斗のバイト先に行こうと思ってるんだけど大丈夫?」
俺が行き先を尋ねると、淳は含みのある苦笑いを浮かべながら答えた。
「俺は大丈夫だが・・・。って、そういうことか。」
俺は、最初はその苦笑いの意味が分からなかったが淳の視線からすぐに理解できた。
「どういうことなの?」
俺の返しを不思議に思ったのか高崎が聞いてきた。澪はいつものように笑顔を浮かべている。
「目的地に着いたら教えるよ。」
そう言い、俺たちはまた歩き始めた。
そう時間はかからずに俺たちは目的地に着いた。
「ここは?」
目的地である喫茶店を見て、高崎が聞いてきた。
「まぁまぁ、細かい話はまた後で。とりあえず、中に入ろっか。」
淳を先頭に店の中に入っていく。
「いらっしゃいませ~、ってあら?翔斗じゃない。」
出迎えてくれた女性店員は俺の顔を見ると、接客スマイルをやめた。
「どうも、雪奈さん。」
この人はこの喫茶店で働いている大学生の『仙道 雪奈』さんだ。
「それに、時坂君に澪ちゃんも来てるのね!それに、そっちの子は初めてね。」
雪奈さんは淳と澪と高崎の顔を見ると、一気にテンションが高くなった。
「とりあえず話は席に座ってからだ。」
立って話すのも面倒なので俺は返事を待たずに席についた。俺につられて3人も席に着いた。
「では、ご注文がお決まりになられましたらお呼びください。」
空気を呼んだのか雪奈さんはそそくさと退散して行った。
「それで、これはどういうこと?」
雪奈さんがいなくなると高崎が事情を聞いてきた。
「ここは翔斗君がバイトしている喫茶店で、少し周囲の視線が気になったからこうして学校の生徒も少なくてあまり人がいないここに来たって事だよ。」
事情を知っている澪が簡単に説明した。
「なるほどね。」
それを聞いて高崎はようやく全てを理解したようだ。
「それにしても、田宮君も澪ちゃんもすごいね。あんな一瞬でそんなことがわかるんだ。」
高崎は自分だけ何も分かっていなかったことが悔しいのかはたまた恥ずかしいのか口を尖らせながら言った。
「「そりゃあ、幼馴染ですから。」」
俺と澪は計画していたかのように同時に同じ言葉を発した。
「それよりもさ、高崎さんは翔斗の働いてる姿見たくない?」
他愛もない話をしていると淳がそんなことを急にぶっこんで来た。
「私も久しぶりに見たいかな。」
澪もその悪ふざけに乗ってきた。
「おい、お前ら。俺は今日、シフト入ってないんだが?」
俺がジト目で言い返すが、二人はニヤニヤした表情をやめない。
「先に言っておくけどねバイト姿の翔斗本当にカッコいいんだよ?」
悩んでいる高崎に淳が追い討ちをかける。
「そうそう、見違えちゃうよね。」
澪もそれに同意した。
「そこまで言うなら私も見てみたいかな。」
何か葛藤があったようだが結局、高崎さんは二人の押しに負けた。
「ということで、翔斗。着替えてきて。」
勝った、と言わんばかりの表情で俺に言ってきた。
「・・・ハァァ。」
俺は溜息をつきながら更衣室に向かった。
更衣室の鏡で確認しながら俺は身だしなみを整えていた。
「あれ、なにやってんの翔斗。」
すると、更衣室の電気がついているのを不思議に思ったのか雪奈さんがドアを開けて覗いて来た。パパッと着替えていたので着替えを見られるというハプニングは起きなかった。
「淳たちがバイト姿の俺を高崎さんに見せたいそうで。」
俺が説明すると、雪奈さんは「あぁ、そういうことね。」と頷いた。
「ちょっと頭出して。」
雪奈さんの手にはいつの間にか手に取ったのかブラシがあった。半ば強引に頭を梳かされた。慣れた手付きで雪奈さんは俺の髪を梳かしていった。
「はいっ、これで良し。」
1分ほどかかった。結衣も言っていたが俺の髪はパーマがかかっているので梳かすのに手間がかかるそうだ。
「わざわざすみません。」
俺は素直にお礼を言った。
「うん、やっぱりそっちの方が似合ってると思うよ。それと、感謝してくれるなら時坂君たちの接客を翔斗がやりなさい。」
「了解です。」
お礼を言って俺は淳たちの元へ向かった。