四大美女 『天宮 要』
手早く藤本との話を終わらせて俺は教室に戻った。すると、教室の中にいる3人(正確にはその中の2人)からなんかよくわからないオーラが出ていた。それに気付いているのか高崎は微かに表情を引きつらせていた。
「とりあえず、落ち着け2人とも。」
俺が溜息をつきながら命令すると、2人は不服そうな目をしながらも渋々いつもの態度に戻った。
淳と澪は決まって「クソ虫。」や「ゴミ。」といった俺のあだ名を聞くと、あからさまに不機嫌になる。
まぁ、こいつらは半ば俺に依存しているようなものだから仕方ないといえば仕方ないのだろうか。
「でもぉ~」
澪がいかにも不服!といった感じで食い下がってくる。
「「でも」じゃない。面倒なことはするなよ?」
「じゃあ、代わりに今度奢ってね?」
淳がここぞとばかりに交換条件を持ちかける。
「別にいいぞ。情報代のお陰でだいぶ儲かったからな。」
バイトをしていることもあるが、淳の情報料金をほぼ毎日のように受け取っている俺の財布は高校生の割にはたくさん入っているためちょくちょく淳と澪に飯を奢っていたりする。
「・・・高崎さんもどうだ?」
驚きを通り越して呆けている高崎にも声をかけた。
「う、うん。お言葉に甘えさせてもらおうかな?」
正気に返った高崎は慌てて返事をした。
その返事と共に昼休み終わりのチャイムが鳴った。そして、俺は叫ぶ。
「結局、昼飯食べれてねぇ~!!」
地獄のような空腹に耐えつつ授業を受け、ようやく放課後になった。
5時間目と6時間目の休み時間に結衣の弁当をブラックホールのように掻き込んだ為、周りからは若干引かれてしまった。まぁ、今更評価が下がったところで気にしないんだが。
今日はバイトもなく、ご飯を奢るのも後日になったため2年生になってから初めての休みなので久しぶりにゲーセンでも行こうと思ったのだが・・・、
その考えは目の前に四大美女が一人『天宮 要』通称”お嬢様”によって阻まれてしまった。
「あら、誰かと思えばクソ虫じゃない。」
お嬢様は呼吸をするように罵倒してきた。
「虫とか言ってる割に一応、人間扱いしてくれるんですね。」
お嬢様は3年生なので体裁上、敬語を使っておく。というか、この学校で淳以外にタメ口を使う人はこの高校にはいない。それほどの権力を持つ女性なのだこのお嬢様は。俺なんか一声掛ければ社会から抹消できるほどの。
「そうよ、私の慈悲に感謝なさい。」
俺の皮肉に気付いているのか、はたまた気付いていないのかさも当然かのように話を続けた。
俺はこのお嬢様が心底嫌いだった。そもそも、彼女のことを好いている生徒はこの高校にいないと思う。
他人を見下したような態度は逆に相手を腹立たせるだけで普通なら直すと思うのだが、この学校の生徒のほとんどが言い返すことができないのだ。何故なら、彼女は日本のトップ企業『天宮財閥』の現当主の娘であり、正真正銘のお嬢様である。
「へいへい、感謝感謝。それで、慈悲深きお嬢様が俺みたいな下賎のものに一体に何の御用で?」
うだうだ話しているとそのうちブチギレそうなのでとっとと話を終わらせたかった。
「えぇ、その前にこれを出せばいいのでしょう?」
お嬢様はポケットから100円玉を俺に差し出してきた。
「ん?あぁ、そういうことか。」
「それで、なにが聞きたいんですか?」
俺は用事を察して話をさっさと終わらせるために切り出した。
「時坂君に贈り物がしたいのだけれどどういうものが良いかしら?」
「・・・お嬢様と淳にそこまでの接点はなかったと思いますが?」
「えぇ、残念ながらその通りよ。」
お嬢様はさも、残念といった感じだった。
「それほど親しくない女性から贈り物を受け取っても困惑するだけだと思いますが?」
俺は素直に思っていたことを言った。
「・・・盲点だったわ。」
すると、お嬢様は表情を暗くした。
(どこの恋愛初心者だよ・・・。)
あまりの馬鹿さに俺は思わず心の中で突っ込んでしまった。
「なら私はどうするべきだと思うかしら?」
「そこは自分で考えろと、言いたい所ですが初回限定サービスです。まぁ、とりあえずは『気兼ねなく会話をすることができる。』というところまで持っていくのが良いでしょう。幸い、お嬢様と淳は知り合いぐらいの関係だと思うので話しかけても不自然ではないかと。」
「そう、ね。それで行きましょう。」
俺が、解決策を提案するとお嬢様はあっさりと了承した。
「用事が済んだのなら俺はもう行きますよ。」
「ま、待って!聞きたいことがあるのだけれど?」
そう言って、立ち去ろうとした俺をお嬢様は引き止めた。こっちはさっさと帰りたいんだが。
「まだ、何か?」
「もう一つだけあなたについて聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?」
俺が不機嫌な声で聞いても、お嬢様はその上から目線な態度を変えることなく言った。
「・・・。」
俺の沈黙を無言の肯定と受け取ったのかお嬢様はそんなことを聞いてきた。
「あなたは私のことを嫌っているの?」
その言葉からはどこか不安のようなものが感じられた。
「それくらい自分で考えてみるんだな。」
そのことが無性に頭にきた俺はそう吐き捨てて、歩き去った。
今度は呼び止められることはなかった。