約束(第1段階)
「「あっ。」」
ある日の放課後でたまたま廊下ですれ違った俺と藤本は思わず声を出した。
「ちょうどいい。話があるんだが今は暇か?」
「今日は部活もないので大丈夫ですが何か用ですか?」
俺から話しかけるのは初めてなので藤本からは少し警戒の雰囲気を感じた。
「淳の話なんだが。」
俺が話の目的を話すと藤本は俺の腕を掴んだ。
「ここではあれなので来て下さい。」
俺は半ば強引に連れて行かれた。
移動した先は、俺がいつも相談を受ける非常階段だった。
「それで時坂先輩に関する話というのはなんですか?」
藤本は話の内容が気になるのか俺のことを急かしてくる。
「淳がお嬢様に告白された。」
「・・・お嬢様って誰ですか?」
てっきり淳の元へ向かうと思っていたが藤本は冷静に質問してきた。
「3年の天宮先輩だ。」
「あぁ、噂の。」
俺は内心、かなり驚いていた。何でも突撃して解決しようとするあの藤本が慌てる素振りもなく、ただ冷静に受け答えをしたいるのだ。
「驚かないんだな。」
「こうしてクソ虫先輩がこのことを話しに来たと言うことは時坂先輩はその告白を受けたわけじゃないんですよね?」
本当に聡い。まさか、これだけの話でそこまで分かるとは思っても見なかった。
「それで?それだけじゃないんですよね?」
藤本は何もかも見透かしたような目で俺の顔を覗きこんできた。
「・・・淳はその告白を断ったわけじゃない。動くなら早くしたほうが良いぞ。」
「ご忠告どうも。じゃあ、私は失礼しますね。」
俺の忠告に素直に感謝し、藤本は歩き去って行った。
俺の中で藤本の評価が少し上がった瞬間だった。
その日の夜。結衣の作ってくれた夕御飯を食べ終えて自室に行くとちょうど藤本からメッセージが送られて来た。
藤本『頼みがあるんですがいいですか?』
俺『なんだ?』
藤本『時坂先輩とのデートをセッティングして欲しいんです。』
俺『別にいいぞ。』
藤本『今日は随分と優しいんですね。』
俺『きまぐれだ、気にするな。』
藤本『では優しいうちにもう一つお願いです。先ほどデートといいましたが正確には私と時坂先輩。そして、クソ虫先輩と成宮先輩のダブルデートと言う形には出来ないでしょうか。』
俺『できるぞ、多分。』
藤本『ではそれでお願いします。』
俺『了解。』
そこで会話は終わった。
俺は徐々にだますようなことをして申し訳ない気持ちになってきた。そこで、不意に頭の中で澪の言葉が再生した。
『翔斗君は優しすぎるよ。』
「・・・俺が優しい?馬鹿馬鹿しい。」
俺は澪に見透かされているような気分になった。気を紛らわすために宿題に取り掛かったが気はまったく晴れなかった。




