四大美女 『成宮 澪』
「おい、俺から離れろ二人とも。さっきから周囲の視線がウザイ。」
俺は話に加わっていないのだが淳と澪が一方的に話しかけてくるため嫉妬の声が凄まじかった。
「いつものことだろ?気にするなって。」「そうそう、気にしたら負けだよ。」
淳も澪もこういうのには慣れているのか何事もなかったかのように会話を続けた。
「そういう話じゃないんだよ!」
俺が思わず怒鳴るとクラスの視線は一斉に俺に向いた。
〔なんだあいつ、時坂と成宮さんに話しかけられてるのに怒鳴るとかマジないわ~。〕
〔マジありえないよね~。〕
〔二人もなんであんな奴に構ってるんだろうね?〕
俺の容姿は良くも悪くも普通なため悪者扱いされるのがいつものことだった。
「・・・諦めたほうがいいと思うけど?」
淳は意地の悪い笑顔を浮かべながら言った。
「・・・勘弁してくれ。」
「全員、席につけ~。HRを始めるぞ。」
俺が机に力なくうな垂れていると先生が入ってきて生徒は全員席に着いた。
現在は昼休み。教室の端っこで俺・淳・澪の3人でご飯を食べていた。
本来ならば4時間目が終わってすぐに俺は屋上でボッチ飯をしようとしていたのだがそれを予知していたかのように淳に連行されて今に至る。周囲からは殺意のこもった視線が俺に突き刺さっていた。
「なんで俺がこんな目にあわなきゃいかんのだ。」
「これも運命だ、受け入れたまえ少年よ。」
俺が悪態をついていると淳がそれに悪乗りしてきた。
「ごめんね、翔斗君。皆がちょっとしつこくて。」
澪が申し訳なさそうに胸の前で手を合わせながら謝って来た。澪は淳と違って悪気がなく、純粋にそう思っているため微妙に言いづらい。
「別に気にしてないから。」
「あぁ、翔斗がデれた~。」
「お前はうるせえんだよ!」
淳がからかってくるのですかさず言い返すとクラス中からまたもや怨嗟の声が俺に突き刺さった。これを繰り返しながら一日は過ぎていった。
「じゃあ、僕は部活があるからじゃあな。」
放課後に入り、ようやく淳が部活に行った。ちなみに、あいつが入っている部活はサッカー部である。二年生にしてキャプテンと言うイケメンのステータスのかさましにもなっている。
「翔斗君、この後暇かな?」
俺が帰るために荷物をまとめていると澪が話しかけてきた。
「今日はバイトもないから暇だが?」
「ならちょっと付き合ってくれないかな?」
その言葉に俺は少し目を見張った。澪は今まで俺を何かに誘うときは必ずといっていいほど隣に淳がいて澪が一人で誘ってくるのは片手で数えられるほどに回数しかなかったためだ。
「・・・あぁ、いいぞ。」
そして、澪と二人きりになる時は決まってあの話のためだった。
俺たちは家の近くにある商店街の喫茶店に入り、席に座って向き合っていた。駅と高校からも離れているため生徒と鉢合わせる心配がないため安心して利用できるのが良い。ついでに、コーヒーもおいしい。
「・・・翔斗君はいつまでそんなことをやっているの?」
澪は悲しそうな表情で言って来た。
「そんなことってどういうことだ?」
俺はあえてすっとぼける。
「分かってるんでしょ?いつまで淳の影役に徹してるの?」
そう、俺は今まで淳の影役に徹してきた。主には、淳のことを好きな女子のお手伝いとか。
「いいんだよ、これはこれで面白いから。」
「でも!そのせいで翔斗君は皆に悪口を言われてるよね。」
俺は淳の事を好きな女子のアシストをしている。しかし、淳は今まで誰とも付き合ったことはない。そして、俺が学校で言われている「クソ虫」や「ゴミ」は淳に振られた一部の女子が腹いせとして広めたものである。そのあだ名が流れ始めてから1年程が立っているため見知らぬ生徒からも呼ばれるようになっていた。
「本当の翔斗君は優しいのに、私は嫌だな。」
澪は尚も悲痛な面持ちで俺に訴えかける。
「もう遅いんだよ、澪。俺に対する評判は学校中に広まってしまっている。もはや、どうすることもできないんだよ。」
俺は否定も肯定もせずただ事実だけを述べた。
「・・・。」
「俺はもう帰るから。代金は払ってあるからごゆっくり。」
俺は有無を言わせない態度で喫茶店を去った。
「・・・。」
背中越しに澪が小声で何かを言ったような気がしたが俺はそれに気付かなかった。
「なら、私が全部を変えて見せる。」