嵐の前の強風
「あの時と同じですね、
その日は昼だったけど今日の様な分厚い雲が立ち込めていた」
だが今日は風が強い、
そして彼女はそんな風に足を取られて死ぬような場所には立っていない
綺麗で整っていた髪が今では枝毛になっている
身体を休めずにどれだけ活動していたのか、
田んぼに落ちて行った時のはねかした泥と思われる跡も見える
「お前...黒田さんの身体でどれだけ無理に活動しているんだ!
その体はお前のように睡眠や休養が要らない体じゃないんだぞ!!」
険しい表情を覗かせて振り向いた。
憎悪と邪悪に歪んだ顔はもう彼女の身体を借りたものではないかのようだ
「五月蠅いですね...
お仲間を置き去りにしておいてよく偉そうにしていられるものです...」
こちらを睨む顔もいやらしい笑みに変わった
「皆は...俺と黒田さん...そして学校のために今も戦っているんだ!
さっさと決着をつけさせてもらうぞ!!」
それを聞いても不敵な笑みは変わらない
「良いんですか? このあなたの愛しい私の身体を傷つけても...?」
今度は俺が笑って応えてやる番だ
「幽霊風情がもう人の身体で生者気取りか」
顔は笑っているが硬直状態で怒りに震えているようだ
「これからお前を追い出してやる...だが、その前に一つだけ答えてもらう。
1年前に、この高校であったオカルト研究同好会のメンバーに
不可思議なことが起きたのはお前の仕業か?」
それを聞いて両手を広げ肩をすくめて見せてきやがった
「さあ...? 何でもかんでも私のせいにされても困りますよ...」
見下すような目で加えて奴は言う
「まあ...私かもしれませんけどね?」
確かな発言じゃないが、
1年前ほどであればその時からオカルトを
研究目的としているメンバーたちの情報を
どこかで知りえれば自分に関する情報を調査する目障りな連中だと思って、
内部崩壊させることなど奴にとっては、わけないだろう
とぼけやがって...部長の分まで、仇を取ってやる
「もういい...どうにしろお前は迷惑なんだ、さっさと出て行ってもらうぞ」
上田が清めてくれて部長がくれた手袋を身に着ける。
対話で済ませられるならどれだけ良かったか
しかし今の状態はほとんど黒田さん本人の意志はまるで感じられない。
こいつを追い出してからが本番なんだ
もう二度目の気絶はくわないと気を引き締める。
線が細くどう見てもか弱い体の彼女を前に
昔から天邪鬼でけんかっ早かった頃の常勝の型を取る。
所詮喧嘩殺法だが、最近聞くルーティンというものがこれに該当してくれるだろう
実際に構えてみると実戦の記憶と感覚が蘇るようだ
過去に負けた方がパシリを一年やるなど、
絶対に負けられない戦いをすることを決めた時に
腰を落として腹の前に右手を軽く握って左手も軽く握り頭付近に構える、
この型を、
あの頃を、
まだ体は忘れていなかった、
いや、長らく忘れていたものが
嘉男くんとの瞑想で過去に向き合うことにより引き出されたのやもしれない。
当時も覚悟を決めた時のものだった
今やこの型と覚悟を決めた俺は、
受けた神霊の力も解放出来ているかもしれない
しかしこちらが滾らせている戦意を意に介さぬように
あちらはまだ余裕に突っ立っている状態だ。
やはりまだしっかりと神霊の力が出せていないためになめられているのか...?
そう考えを巡らしている自分に奴が掛けた言葉は意外なものだった
「神霊を纏っているとはいえ、私は今一度あなたに降伏を勧めます」




