退室
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周りを見ると
先輩も信じられないという風に目を見開いて現実を疑っている。
それであって黒田お母さんは悲しげに俯いて何かのメモ書きをしていて、
先生は未だ眉をひそめながらも真剣な表情だ。
先輩と俺を除いてあとの二人はこの変化を前にも見ているのか...?
「じゃあ相談は終わったので帰ります、今日は気分が悪いのを惜しんで
来たから疲れちゃいました...。
ここで倒れられても先生の手を焼かせるだけですしね...」
そう言うが早いか帰り支度をさっさと済ませて、
俺のすぐ横を通り抜けて行った。
その刹那の笑みは優しげでありながら整った顔だけに歪んで見えた。
普通ならその微笑みは凍りつかせるものなのかもしれないが、
俺はドキッと感じてしまったのだから異常だろう。
「えっ、行かせちゃうんですか?」
もう黒田さんが出て行った後に先輩の止まった時が動き出したようだ。
さっきから固まっていたので大丈夫かと心配になっていた、
無理もないし気持ちは分かる。
黒田さんにあんな一面...という言葉で片付けられるのか分からないほどの姿があったとは。
「...たまにいるのよ、ああいう子は」
そう言って背を見せた佐東先生は物悲しげであった。
黒田さんのことについて色々友人として話したかったであろう先輩も口をつぐんで、
ゆっくりと本来の保健係の仕事をし始めた。
背を向けながらまた先生が
「それに、あなた達も早く教室に行きなさい。浬君に関しては荷物も置いてないようだし、
遅刻扱いになるわよ?」
言った一言に
そ、それもそうだっ!と今度は慌てて部屋を抜け出そうとした時だった
「渡辺君...」
囁く声にビクッとした耳に息でも吹きかけられたような艶やかな声であった。
いつの間にすぐ横に黒田お母さんがいた。
すると黙って小さく折りたたまれたメモを渡された。
ズボンのポケットに忍ばせて滑り込まされた際に、
間接的に太もも辺りを触られたようでビクッとした。
「ではまた...」
そう残して先生と話しに向かうその人を
「え、ちょっとこれは――」
と呼び止めようとして踏み出した足がズキンと痛んだ。
今までの緊迫感から解放されてか、詳しくは知らないがアドレナリンか
何かが切れたのだろう
「イタッ!」
思わず出てしまった声に全員がバッと振り向いた。
さっきのこともあって何事かと見つめられながら、
「...その~、実は俺足を怪我して保健室に来たんですけど~...」
気まずい空気の中俺がそう言うと
「「なんでそれを最初に言わないのよ!!」」
と、先輩と先生に怪我の深さも含めて怒られながら二人に治療されてしまった。
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