姉貴
「よいしょと...」
隣に先輩が背中をフェンスをに押し付けて座った。
過去のような動揺が懐かしい。
現在の俺はもうピュアを喪失してしまった気がしている、
それも奪われてしまったのだ
「なに、泣いてんのよ男のくせに」
「す、すんません」
口元も目元も拭う。
実に男らしくない姿を晒してしまった
一息ついて落ち着いたが
まだ生々しい感触が口元に残っているような気がする。
美人にされたことなのだから喜ぶべきだろうが、
一方的にされる行為は後味の良いものでないことがよく分かった。
女の子が男から受ける仕打ちを
男である俺が女である彼女にされた。
これからは女の人に優しく出来る気がした
「どうせ、襲われてたんでしょ?」
落ち着き払ってきた精神にズンと響くような言葉だ。
「ま、まあ...」
「何で女に男が力で負けちゃうの? 筋肉付いてる?」
フニフニと二の腕を掴まれる
「や、やめてくださいよ」
「ほら、その情けない声。そんな風だからあの女に良いようにされんのよ」
うぅ...
説教食らってるみたいだ、まるで...
そう姉のようだ。
「だいたい、アンタはねぇ...」
腕を組んで叱ってくれるその頼れる風貌にボケーっと見惚れてしまう
襲われた反動だろうか、
もう姉御肌の女の人としか関われない女性恐怖症にももう俺はなっているのでは...
パチンっ!
良い音がして頬っぺたをひっぱたかれた。
痛みは冬の風がすぐに冷ましてくれる程度のものだった
「渡辺!アンタの話してるんだけど!!」
「ご、ごぺんなさい...」
呂律も回らず心酔気分も抜けない
そんな酔った気分で頬擦りながらついつい口に出てしまった
「お姉ちゃん...」
「え、なんか言った?」
まだ続いていた説教を遮断して俺の呟きは聞こえていた
「な、なんでもないです」
「まったく...しっかりしてよね」
そのため息交じりに言われそうな一言を俺は力強い激励だと受け取った。
少し鼻で笑って、急に自分が可笑しくなって笑い始めてしまった
「な、なによ...気味悪いなぁ」
「よしっ!」
太ももを叩くように手を置いてスッと立ち上がった。
「ありがとうございます、先輩のおかげで吹っ切れました」
「え、え? 立ち直り早くない? アンタ情緒不安定なの?」
驚く先輩に俺は爽やかに笑いかけた
「いえ、先輩だからこそすぐ立ち直らせて貰えたんです。
じゃあ、俺にとっては地獄と化してしまった教室に...行ってきます!」
そう気分よく走りだそうとして首根っこを掴まれた
なんという瞬発力だ。
「待ちなよ、まだ授業まで結構あるよ?」
「え?」
片足が浮いたまま固まる。
「さっき授業がもう始まるって...」
「あんなの嘘に決まってんじゃん、ここには時計もないし
どうせイチャイチャしてる奴らは簡単に騙せるかなってね」
案外狡猾な人だなぁ...
そうして首元を放されると先輩はドカッと座った。
「だからほら、アンタも座って知ってること話してよ
あの変わり果てた性格になってしまったうちの友人のことを」
隣の位置を叩いて催促してくる。
俺の急に盛り上がった躁の意気は
先輩によってすぐ消沈させられた。
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