慢心
「フンフフ~ン♪」
朝から鼻歌が止まらなかった。
故に食卓では母にも父にも怪訝な顔をされたが
そんなものはまるで気にならないほど上機嫌であった。
それにあの出来事から帰って自室のベッドに突っ伏してから現実感が戻ってきて
どれだけニヤニヤしたことか。
足をバタバタさせてみたり変な笑い声が出たり誰かに見られようものなら
精神を疑われる挙動ばかりだ。
それに恋をする綺麗になるというが、
男である自分も風呂上りの時の顔はいつもよりスッキリして見えて、
笑顔の練習を湯冷めするまでやっていた。
その気分上々効果は翌日の朝の今になっても健在であった。
ここまで退屈な学校に足取り軽やかに登校したことは一度も無かっただろう。
羽を授けられたようだ
天使は彼女なのだが。
そうして油断しているかというとそうでないのが自分だ。
今まで生きてきてここまでの幸福感はないが、
いずれにしろ人生の中で一つ得た、
いつも念頭に置いている知恵がある。
それは幸せがあるときほど不幸に気をつけよ、と......
根拠は、自分は神にでも嫌われているのか、というレベルで
幸せな思いをした後すぐ
その浮ついた心を叩き落すような不幸に高確率で見舞われるからだ
が、故に
「見切っているぜっ!」
そう口パクで言って上履きをひっくり返した
しかし、中身は空のようだ。
念のため中も見たが画鋲が張り付いているなど姑息なトリックもない
どうやら犯人は上履き作戦は辞めたらしい
だからこそ油断は出来ない。
そうなると俺を付けねらってくる犯人が、
俺を嫌う神からの手先のような気がしてきた。
とりあえず周りに注意を払いつつ進むことにする
それにしても...
今までは気にも留めなかったし、気にかかれば妬ましく思えていた
校内カップルが目に付くようになってきた。
当然理由はそれの自分も仲間入りを果たしたような気分でいるからだ。
過去の嫉妬が嘘のように
親近感を増して彼らを穏やかに観察する自分がいた。
どころか彼らのほうが敬意を払うべき
恋愛歴に関しては先輩なのでは、とへりくだるような態度にもなっていた
妬み嫉みなどしていた自分は坊やであったな、と鼻で笑ってしまった
さて...ついつい浮かれ気分で早めに学校に来てしまったが、
やることなど何もない。
教室に行っても楽しい気分が冷めるだけかもしれないし
屋上は晴れているのは言え、
まだ寒い。
と、なれば.....
「いるかなぁ...」
今度こそ先輩に言い訳ができないほどの保健室の覗きをしていた。
でもまあ黒田さんがいるかのチェック程度だから...
問題ないだろう!
「ふーん、常習犯だったんだ...」
「...」
もう向き直ることなく
その声の正体が分かった。
「話は中で聞くから、ドア開けて」
警察に連行されるような気分になった。




