表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夜の季節 真嶋栄

作者: 真嶋栄

二作目の投稿です。

中学生のときに大学ノートに書いた小説をアレンジしました。どんな評価でも嬉しいです。評価してください。

地面の下の地獄ではお釈迦様が仕事を放り出して昼寝をしていました。空の上の天国では天使達が雲の上を駆け回ったり、下界の様子を見ていたりしています。

その天使の一人がとある男に目をつけました。

その男は天下の大泥棒佐助。彼は自分の村の神社に泥棒に入ろうとしていました。

それは今が神無月だからでしょう。

神無月の季節。日本全国の神様は皆、自分の持ち場の神社を留守にして出雲大社に行き、来年度についての会議をするのです。



神々が出雲大社に集まったその夜、佐助は格子をがらりと開けました。

玄関には下駄が一足ありました。これは留守番の修行僧のものでしょう。だけれど心配はありません。今は夜中。皆、寝静まっている頃です。

佐助は自分の下駄を玄関に揃えて置き、そろりそろりと中に侵入しました。

佐助は玄関を上がって少し進んだところにある、神様がいつも座っている座布団にありつきました。

そうして、そこの小さな机に竜の絵が描かれた扇子があることを発見しました。

佐助はその扇子を手に取り広げ一息付きました。そうして、さてこれからどうしたものかと考え、結局その日は神社を後にし、家に帰って寝ることにしました。

佐助が玄関で下駄を履き、盗んだ扇子を小包に包んでいると佐助の眼前の格子がゆっくりと開きました。

佐助の背筋は凍りつき、小包を懐に隠し、直ぐ様下駄箱に身を潜めました。そうして息を殺し、ちょっと下駄箱の戸を開け、外の様子を見ました。

そうすると、格子を開けた人物はこの神社を今年度受け持っている神様だと分かりました。

その神様は、

『いけぬいけぬ、余の扇子を...。あれを...。』

と下駄を脱ぎながら呟いていました。

佐助は背筋を再び凍らせ、神様の言う扇子とはまさしく今自分の懐にあるこの扇子だと勘づきました。

 

佐助はどうしたら良いか分かりませんでした。

ここで下駄箱の戸を開けてしまったら神様は腰を抜かして一瞬にして捕らえられてしまいます。

このまま神様が出ていくまでここに隠れていたらきっと嫌なバチが当たることでしょう。

しばらくそこに身を潜めていました。神様は未だあちらこちらをうろうろして、扇子を探しています。

また、修行僧も起こされ彼も一緒に扇子を探しています。

佐助はこのままじゃいけないと発起しました。思いきって下駄箱を開け、玄関の戸をぴしゃりと開け、懐の小包を庇いながら夜の砂利道を思い切り駆けました。

神様と修行僧はもちろんそれに気がつきました。

修行僧は、

「こら!」

と言い下駄を履いて追いかけようとしました。

ですが神様は、

「待ちなさい!」

と修行僧を引き留めました。

修行僧が振り返ると神様は、

「待ちなさい!  お止めなさい! 彼はそのままで構いません!」

その日も、また次の日も、佐助は捕まりませんでした。

上手くやった。そう思っていました。

一応盗みはしばらくしていません。

佐助は万一のことを第一に考える男でした。


神無月の翌月。霜月の一日目。神々は出雲大社での会議を終え皆、元の持ち場に戻っていました。

一方佐助はそろそろ泥棒を再開させようと企んでいました。そうしてその日の真夜中、家を出発したのです。

その日盗みに入った家は見事に空き家でした。

前にその家の前を通りかかった時、家の明かりは付いていたので、佐助は旅行にでも行っているのだろうと考えながら家の金目の物を盗んでいました。

金目の物はすべてを盗んでしまい、家を出ると懐の小包が奇妙に動きました。

佐助は何事かと思い、その場でしゃがみ、小包を開け盗んだものを一つ一つ詰め直しました。

そうしていると、奥の方に以前に盗んだ神様の扇子がありました。

佐助はその扇子を広げて顔を扇ぎました。夜中の仕事は気のせいに逢いやすいと思いました。

そうしていると佐助の頬に何かが当たりました。それは扇子ではありません。

佐助は当たった方へ目を動かしました。


そこには扇子の絵から抜け出した竜がいました。そうして、その竜の頭には盗みに入った神社の神様がいました。

佐助は気づかぬうちに腰を抜かしていました。そうしてふらふら立ち上がると一目散に逃げ出しました。

だけれど竜と神様は家々の屋根の上を舞い、佐助を追いかけます。

「堪忍してくれ!」

と佐助は叫びました。

佐助が初めて、自分の負けを認めた瞬間でした。

次の瞬間。竜は佐助の尻をくわえ、空の彼方に放りました。

竜の頭に乗っていた神様は飛んでいく佐助を見つめ微笑み、竜から降りると不思議な力で竜を元の扇子に収めました。

そうしてその扇子で顔をぱたぱた扇ぎながら、

「出雲大社は暑いんだ。」

と呟きました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ