現実は、いつも非情
続きです。
薄暗い部屋に、朱いペンキ。鉄臭いその部屋には大きな袋が二つ置いてあった。そして、開かれたままで不自然におかれた絵本が部屋の真ん中で異彩を放っていた。
「……?」
無駄に目線が高いことに違和感を覚え、女の子はバッと自分の身体を確認する。
「――――――!?」
なんだ、これは。身体が大きくなっている。ふと、部屋に立てかけられた姿見に映る自分を確認すると、いつもの見慣れた気弱そうな表情の女の子が映っている―――わけでなく
「わたし、おねぇさんになってる……」
伏し目がちな眼や柔らかな雰囲気、どことなく大人びたような空気を纏った……少女が、そこにいた。驚いたようにあたりを見回すと、不意に頭の中にこの体の持ち主と思われる少女の記憶が流れ込んでくる。
鮮明な朱、辛くて苦しいだけの憎悪、叫びたくなるほどの痛み。それは、女の子が経験したことがないような苦痛で、たまらず泣き声を上げる。この痛みの意味が知りたくて、何もわからなくて、女の子は袋の中身を空けた。そこは、
「――――――っ!?」
腐臭とともにおびただしい数の肉片が出てきた。禍々しい雰囲気を放つそれに圧倒される。吐き気を堪えながらもソレを改める女の子に対して、現実は無常だった。切断された手足に血抜きもされず無造作に突っ込まれた臓物。袋の中の光景はまるで精肉の加工工場のようなありさまだった。
「――――――きゃa」
悲鳴が途中で止まった。あまりに凄惨な状況に意識を保つことができなかった。
§
柔らかな木漏れ日に、さえずる鳥の声。あまりにのどかで不快なこの状況に少女は飛び起きた。いつもとは違う世界に、現状を把握しきれない少女は自身の身体に外傷がないか、とまさぐる。
「――――――???」
いつもと違う柔らかな頬、フニフニとした手足は、まるで幼子のよう……
「え、わたし、女の子になっている……の?」
少女が鏡を見ると、いつもの大人びたような空気を纏った少女……ではなく、見慣れない気弱そうな表情の女の子が映っている。まるで昔の自分とそっくりだ、とどうでもいいことを思い、ここはいったいどこなのか、と少女は周囲を見回す。どうやら部屋の中のようだ……そして、不意に頭の中にこの体の持ち主と思われる女の子の記憶が流れ込んできた。
「おーい、 大丈夫か? 急に倒れて……」
扉がノックされ、優しげな顔立ちの男の子が入ってきた。これは、女の子の記憶にあるいつも優しくしてくれる男の子だろう。
「うん、ありがとう××。だいじょうぶだよ」
流れ込んできた記憶にある女の子の口調そのままに、少女は答える。安心したように近づいてきた男の子は、手際よく持ってきたコップに水をそそぐ。
「ほら、これ、水」
少女は差し出された水と、男の子がくれたやさしさがとてもとても羨ましく、妬ましく(・・・・)なった。
過去の自分と外見は同じなのに、なんでこんなにも、優しく恵まれた世界なのか、と。
そして男の子が差し出した水をありがたく受け取り、顔のすぐ横に合った花瓶から花を一輪抜き取って、彼の心臓を狙って突き刺した。
「―――ぁ、 。どうし、た、んだ?」
女の子の名前を呼ぶ男の子に、繰り返し繰り返し突き刺しながら少女はつぶやく。
「……妬ましい、羨ましい、潰えてしまえ」
辺り一面が朱に染まり、少女の口元が微笑む頃、女の子が倒れたのを心配したいたずらっ子たちがやってきた。
かれらのめのまえが くらくなるまで あとすこし
拝読有難うございました。引き続きよろしくお願いいたします。