頁、手繰る
ゆったりと書いていきますので暖かい眼で見ていただけますと幸いです。
どうぞ楽しんでいただけますよう。
少女の手には古びた絵本があった。それは、伏し目がちな眼や柔らかな雰囲気、どことなく大人びたような空気を纏った彼女にピッタリの……それでいてどこか不釣り合いな不思議な雰囲気を醸し出していた。閉じられた表紙は日に焼け、絵本のタイトルすら読み取ることができない。擦り切れボロボロになったそれを手繰りながら少女は見るものすべてを魅了するような悩ましげな表情でふ、と溜め息を吐いた。
「一体…いつ読んでいた絵本なのこれ。綺麗な絵空事ばかりで反吐が出る」
外見に似合わぬ言葉を吐き捨て、少女は忌まわしげに絵本を一瞥すると徐に絵本を放り投げた。
受け取るものもいない絵本が、シンとした空気の中乾いた音を立て地面で開かれる。当然拾われないそれは、風もないのに独りでに頁を捲りはじめた。
「……なにこれ、気持ちが悪い」
少女は何の感情もこもっていないような氷のごとき眼で蠢く本を見やる。と、本は頁を捲るのをやめ、まるで少女に読めとでも言わんばかりにぼんやりと輝き始めた。
「胡散臭い―――」
どことなく言いかけた彼女の言葉を、強くなっていく光が飲み込んだ。瞳を不自然にちらつく文字列が彼女の視界を奪う。
そして なにも みえなく なった。
§
皆は女の子に意地悪をする。優しすぎて怒らないから、と彼女の花壇を踏み荒らしたり、大事に育てた白いお花にペンキで色を塗られたり。そのたびに女の子は鳶色の大きな瞳を潤ませ、小さな手で必死に悪戯される前の状態に戻そうとする。そんな様子を傍から見てケタケタと笑われるのがいつものことであった。
「おはなさん、かわいそうだよ……」
女の子はそういいながら散らされた花弁を拾ってゆく。そんな健気な彼女の頭を不意に現れた人影が撫でる。
「また、やられちゃったのか…… は優しすぎる。怒っていいんだぞ?」
いつものようにお菓子が入った籠を腕に男の子は彼女を励ます。
うん、と頷くように無言で首を振る女の子に男の子はそっとお菓子を差し出した。
「これ、 が好きなやつ。食うか?」
不器用に差し出されたその手に、女の子はクスッと笑う。その顔は何よりも美しく、悪戯をして楽しんでいたはずのモノたちも自然と笑顔になった。と、
「――――――?」
不意に首を傾げた女の子に、周りも何が起こったかしらん、と首を傾げる。
女の子の瞳を覆うように、文字が渦巻いていた。
いつもどおりの やわらかなひび
拝読有難うございました。もしよろしければ、これからもよろしくお願いします。