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ドールマスターへの兆し。

 恵里佳が五つになる前、ちょっとした驚きがあったわ。

 志津恵が恵里佳へおもちゃを作っているのを見せていたとき、恵里佳も志津恵の真似をしてうんうんうなっていたの。


「むー……、むー……、あっ……」

「恵里佳っ。どうかしたの? 怪我とかしてないわよね?」

「あのね、これ、へんなかたちになっちゃったの」


 志津恵が見たものは、恵里佳の手のひらの中で木の形が変わってたこと。


「ママのまねしてたら、てのひらがね。あっつくなってね」

「凄いわ。あなた魔法が使えるようになったのね?」

「まほう?」


 こてんと小首を傾げる恵里佳がめちゃめちゃ可愛いわ。

 ぼーっと見惚れてしまった志津恵は、はっとして笑顔を作ったわ。


「──ううん。いいの。ゆっくり教えてあげるから」


 志津恵は自分の膝の上に恵里佳を抱っこして、両手を恵里佳の手に添えたの。


「ここ、手のひらの内側にね。『えいやっ』って気持ちを込めるの。『こんな形になぁれ』ってね」


 私が見てた志津恵の通り、いい加減というか、大雑把というか。

 志津恵はあまり教えるということに向いていないのね。


「うん。むむむむむ……。まるくなれー……。あ、まるくなった」

「偉いわ。今度はね、無理しないでこう……」


 志津恵は呑み込みの早い恵里佳に驚きながらも、解りやすいように色々な『地魔法』を教えていったの。

 まぁ、名前だけの『地魔法』だったというツッコミはやめておきましょう。


 ▼▽


 今の恵里佳は志津恵ほどではないけれど、土や木の加工は思うようにできるようになったみたい。

 それどころか、志津恵そっくりの胸から上の彫像まで作ってしまっていたの。

 視覚的イメージを形にするセンスはなかなかのものみたい、志津恵がそう思っていたわ。

 ぱっと見た感じ、志津恵だと解るくらい立派なものだったのね。


「ママ、できたー」

「あら、これ私かしら? ほんと、上手ね」

「えへーっ」


 胸を張って『えらい?』とする姿が、めちゃめちゃ可愛いわ。


「うん。上手よ。偉いわね」


 志津恵が頭をぐりぐりと優しく撫でると、目を細めて気持ちよさそうにしてる。

 恵里佳は木の枝から直方体のような塊にして、そこから変形させて志津恵そっくりに作ってしまったの。

 髪の毛の部分はあいまいだけど、それでも日本にいた頃なら展覧会で賞をもらってしまうくらい上手なものだと、志津恵は思ったのね。

 恵里佳は舌足らずな可愛らしさのくせに、成長の度合いが物凄く速いの。

 恵里佳のあまりの魔法取得の速さに、志津恵はつい余計なことまで教えてしまいそうになったわ。


「これをね、こうして三つ作っておくの。それでね、こう合わせてあげるとね……」

「うわぁ……」


 志津恵は三つのパーツに分けて関節部分を作って、肩、腰、股関節、膝、足首、肘、手首と部品を作っては繋いでいったわ。

 最後に頭を乗せて、簡単なデッサン人形(という名前の人形みたいね)のようなものを作って見せてしまったの。

 志津恵の知識は、この世界の人とはかなりかけ離れたものがあるみたいね。


「うわわわ、おにんぎょうだっ」

「可愛くなくてごめんね、恵里佳」

「ううん。かわいいよ。すっごくかわいいのっ」


 志津恵が何故このようなことが可能になったかというとね、こんなことが恵里佳が来たばかりのときにあったの。


 ▼▽


『土や木だってできるのよねぇ。なら、布だって木綿や絹や麻でしょ? 石油製品でなければ、木だって無視だって結局は土に戻るんだから。できないことはないわよねぇ』

 こんな適当な考え方で、志津恵は糸を持って魔力を込めたわ。

 縦糸と横糸で編む感じに、適当に『えいやっ』とやったら、布ができてしまったの。

『あら便利。これなら助かるわね。あとはこうして、こうっ』と、縫い目なしのベビー服を作ってしまったのね。

 非常にマイペースな志津恵だったから、『あら便利』で済ませてしまっていたのね。

 天然な志津恵ってある意味怖いわね……。

 こちらにある魔法の種類でカテゴライズできなかったため、一番近い『地魔法』と表示されたのでしょう。

 その正体は、素材があれば魔力を使用して何でも作り出してしまうとんでもない能力だったということを志津恵も気付いていないみたい。

 そんな優秀な志津恵に気付かず、捨ててしまったライルヘンジ王国も、また間抜けだった言えるわね。

 もちろん、志津恵自身も、自分の力の凄さに気付くことはないのでしょう。

 大切なことだからもう一度言うわね。

 天然な性格って怖いわね……。

 私も何か教えてあげたいのだけれど、意思の疎通ができないから今はどうにもならないわ。

 悔しいというのは、こういう気持ちなのかしら?


 ▼▽


 その能力を色濃く受け継いでいた恵里佳もまた、とんでもない娘に育ってしまう可能性を秘めていたのね。

 恵里佳は顔の部分を自分で作り変えて、鏡で見た恵里佳にちょっと似た感じの顔を作り上げてしまっていたわ。


「ねぇママ」

「んー?」

「このおにんぎょうさんのおようふく、つくってほしいな」

「はいはい。じゃ、恵里佳が着てるようなのでいいわね?」

「うんっ!」


 志津恵は布切れからひょいひょいっと、人形サイズのワンピースをあっさり作ってしまったの。

 これが普通だと思っている二人は、この先一体どうなってしまうのでしょうね。


「はい、これを頭からかぶせて、はい、できあがりーっ」

「やったーっ」


 私はいつも恵里佳や志津恵の周りをくるくると回っている。

 志津恵は恵里佳を守護している精霊だと気付いてくれていたから、気にしないでくれてるみたい。

 そして、志津恵と恵里佳を引き合わせてくれたキューピットみたいなものだから、ずっといてくれて欲しいとまで思ってくれてるわ。

 私は嬉しかったわ。

 そこでちょっとした悪戯を思いついたのね。

 私は光りながらくるくると旋回して、恵里佳の持っていた人形の頭へすぅーっと入って見せたの。


「あれ? くるくるさんが、おにんぎょうさんに入っちゃった」


 恵里佳は私のことを『くるくるさん』と呼ぶようになっていたわ。

 その呼び名は志津恵も結構気に入っていたみたいね。


「あら? どうしたのかしらね?」


 別に驚くこともなく、母娘そろってぽけーっとして見ていたの。

 私は志津恵から魔力をずーっともらってたから、精霊としては成長してた方なの。

 うまくいけば、人形を動かせるかな? って思ったのね。

 動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け……。

 腕がぴくっとしたわ。

 あ、動いたのね。

 

 私は恵里佳の手から飛び跳ねてみせる。

 空中で一回転して、テーブルの上に着地してみたの。


「「えっ?」」


 私は両手を水平にしてくるくると回ったあとに、ワンピースの裾を両手でつまんで、膝をたたんでお辞儀をしたの。


「わぁっ、くるくるさんすごいすごい」


 私は表情を作ろうとしてみたけど、志津恵や恵里佳のような魔法が使えない。

 だから、首を数回横に振って、恵里佳に見えるように手を交差させたわ。


「恵里佳、なんだか『くるくるさん』って名前じゃないみたいよ?」


 伝わった。

 私は大袈裟に首を縦に振ってみたわ。


「そうなんだ。ぐるぐるさん?」


 違うわよ。

 私は手を交差させてバッテンを作ったの。

 そこで志津恵は考えたみたい。

 紙とペンを持ってきて、日本でいうところのひらがなの五十音ね。

 そのこちらの基礎的な言葉を横に順に並べて書いてくれたわ。


「人形さんって言葉がわかるみたいだから、これで答えてもらいましょうね」


 恵里佳にも基礎的な読み書きは教えていたからすぐに理解できたようだったわ。


「うん、ぐるぐるさん。できる?」


 私は手を恵里佳の目の前で右手を左右に振って『ちがうって』と言うアクションしてみた。

 それから両手を揃えて志津恵からペンを受け取ろうと思ったの。


「はい、これで指してくれるのかしら?」


 私だって志津恵と一緒に本を色々読ませてもらったわ。

 基本的な文字は理解できているつもりよ。

 私はペンを逆に持って【は】【い】と連続して指し示したの。


「おおおお、おへんじしたよ。ママ」

「そうね。お人形さんのお名前は何なのかしらね?」


 私は志津恵の言葉に答えるように、ゆっくりと順番に言葉を指し始めた。


「あ・ね・っ・と・ふ・ぉ・ー・る・す・と・れ・い・ん・ぶ・る・く。んー、アネットフォールストレインブルクっていうのかしら?」


 そう、私の名前はアネットフォールストレインブルク。

 私は理解してもらった嬉しさで、飛び跳ねて見せてから【は】【い】と指した。


「あねっとふぉ……、あうあう……」

「うふふ。長いからアネットさんでいいかしら?」


 仕方ないわね。

 私は【は】【い】と指し示して返事をしたわ。


「やったー。アネットさん、だね?」


 いつも志津恵に見せるように、恵里佳は首を傾げてくるの。

 私ははペンを一度テーブルに置いて、頭の上で大きく腕で〇を作って返事をしたわ。

 まだ二人は気付いていなかったの。

 この世界で私たちのような実体を持たない精霊と、意思の疎通を行った者などいなかったということをね。

 そういう意味では、私も変わっているということなのでしょう。

 二人と話をしたい、そう思ってしまったのですから。


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