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クリスマスプレゼント

年末の通勤電車は分厚いコートを着たサラリーマンや背中にリュックを背負って面積を1.5倍にしている大学生でほぼ隙間のない状態で郊外から都心へと走っていた。

「もうすぐ、クリスマスか・・・」道彦は車窓から見える多摩川で野球の練習をする小学生を目で追いながらつぶやいた。


「ここに座って下さい」

年は50くらいの女性が笑顔で道彦に声をかけた。


「ありがとうございます」道彦は車内で起こるいつもの出来事を素直に受け入れた。少しの悲しさと感謝の念を持って。


道彦は、小学生3年生の時通学途中で交通事故に巻き込まれた。無免許の大学生の運転する車だった。それ以来、右足は不自由になりいつも杖をついて都内の会社に通っているのだった。30才になった今でも車内から見える野球場で走り回る小学生を見るとやるせない気持ちになるのだった。


電車は全国で一番の乗降客のある駅に到着した。道彦は、足が不自由なこともあり車内の人が全て出てから座席を立ち、改札に向かうようにしていた。今日はたまたま電車が遅れ、いつもと違うプラットホームに車両が入ったためか、電車のドアを降りた所に下の改札に向かう階段があった。

道彦にとって、階段は使いたくないのだが時間が遅れていることもあり、手すりを左手で持ちながら慎重に一歩一歩降りていった。最後の段で気を緩めたことが悪かった。杖が自分の両足の間に挟まってしまった。道彦は体が大きく前に飛び出し、顔からた折れ込むことを覚悟した。


右足がしっかり道彦の体を支えた、信じられないほどのエネルギーが大地から右足を通して体に注ぎ込まれるのを道彦ははっきりと感じた。回りの人々は、道彦が倒れ込むのを予想していたのか、怪訝な顔を道彦に向けて通りすぎた。


「どうして、右足がうごくんだ、どうして」

道彦はおそるおそる右足で一歩を踏み出した。右足は駅の白い床をしっかりとグリップした。


「信じられない、信じられない」道彦は、駅にいる人々を気にすることなく、涙を流し続けた。


明日のクリスマスを前に、いつもであれば、クリスマスイブの賑やかな世界中の様子を伝えるテレビだったが今年は違った。世界中で起こる何万、何百万の人に訪れた奇跡を報じていた。足の自由を取り戻した人、目に光を取り戻した人、末期のガンが跡形もなく消えた人、戦争は終わり、全ての争いは停止されることとなった。


体が不自由な人々、子供を襲った恐ろしい病気に嘆く母親達に、地球からのプレゼントが送られたのだ。


地球は人類にとって生命を超越した存在であった。太古から人類は畏怖の念を持って地球に接してきた。また、地球も人類に対して厳しさを与えることがあっても、優しさを忘れることはなかった。この、100年近くの地球に対するひどい仕打ちがあったとしても・・・たとえ、地球を傷つける存在でしかない人間だとしても。愛しい人々にクリスマスイブにプレゼントを送ったのだ。


奇跡が終わるとき、地球は終演を迎えようとしていた。地球の内部では静かに地殻変動がはじまりクリスマスの日にマグマが吹き出し、地球は崩壊し始め、全てが闇の世界になってしまうのだ。


奇跡を報じるテレビは途切れることがなかった。クリスマスイブの星降る夜空に、地球、そして人類の終わりを祝うかのように全ての教会から鐘が鳴り響いた。人々は最後のクリスマスイブの聖なる夜を祝っていた。明日起こることを夢にも知らず・・・


終わり






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