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9、騎士団員と奥様たち

 王宮の騎士団では、第二隊長のクローディアス・フルサルのことが話題になっていた。


「最近、第二隊長わかりやすくなったよな!」

「無口と無表情はそのままだけど、なんとなく、頭の上に天気がわかるんだよな。」

「曇っていたり、雨雲で雨降っていたり。」

「先日の大雪の天気はびっくりしたよなー。ヒンヤリした空気を感じたぜ。」

「俺は、たまに飛んできた氷にびっくりだったよ。」

「今日は晴れていい天気っぽかったぞ。」

「今日は、よっぽどいい事あったんだろうな!」

「今日の訓練・・・楽になるかもしれないぞ!」

「大雪の日の訓練は・・・死ぬところだったな・・・。」



 騎士団長・第三王子ユーアティリオは、幼馴染でもあるクローに、あれこれとアドバイスをしていた。


「昨日の、花を彼女に贈ることは、うまくいったようだな。」

「(コクリ)・・・喜んでいた。」

「アクセサリーのプレゼントを断られた時は、どうなることかと思ったが。

フム・・・。第一作戦の『彼女となかよくしよう』は目標達成だな。

そろそろ第二作戦『彼女ともっと触れ合おう』だ!よし、彼女を今度の夜会に招待しよう!」

「!・・・夜会嫌い。」

「おい!彼女とダンスができるんだぞ。体が寄り添い、触れ合うことによって心も近づくんだぞ!」

「・・・(コクリ)。」

「よし!彼女を誘ってこいよ!」



**********************************



 あれから次男さんは、わたしに色々なものをプレゼントしてくれるようになった。

もらって困るようなもの(宝石とか)もあるけれど、昨日のお花は綺麗だったなぁ。

一輪の薔薇をそっと手渡ししてくれた。飾ったお部屋でずっといい香りがしていたっけ。

幻想だけど、クロー様って大きなしっぽを振っている大型犬ワンコって感じで、喜んでいるのがわかる。

かまってー、かまってーと擦り寄られると、頭を撫でてあげたくなっちゃう。

無口で無表情なんて、ちっとも気にならない。

彼は心の中では、とってもおしゃべりなのかもしれない。

そっと接してくれる優しい人・・・。

次男さん・・・クロー様のそばにいるとほっと落ち着く・・・。



 次の日、わたしは奥様と若奥様(長男嫁)とお茶をしていた。


「まあ~!今度の夜会に招待されたのですって!」

「はい。クロー様のエスコートで行くことになりました。」

「嬉しいわ!ドレスを一緒に作りましょう!私がお世話をするわ!」

「でもわたし持っているのがあるので・・・。」


 ちょっと面倒なのであんまり行きたくないけど、クロー様に涙目でお願いされちゃったのよ。

かわいそうなワンコには逆らえない!

それに、こちらに来た時に、着ていたドレスでいいでしょ。

そうだ、一応、見てもらわないといけないかしら。


「きゃあ!かわいいドレス!見せて見せて、素晴らしいわ!

何で出来ているのかしら、つやつやしていて、このふわふわ!この透けているのもいいわ。」

「あー、シルクとオーガンジーとレースですね。」

「この国には無いものばかりよ!背中の留め具はどうなっているの?ネックレスは、丸い石?」

「ファスナーもないんですね(異世界チートは服だったか)・・・。

アクセサリーは真珠です(結婚式の標準装備だし)。貝から出来ているんですよ。」

「スカートをふくらませるのが軽いわ!」

「パニエといいます。」

「「どれも貴女に似合うわねー。かわいい!」」

「でも、もうちょっと丈が足りないから、やっぱり一枚作りましょうね!」

「お揃いでもいいかもしれません、お義母様!このレース?っていうのを作らせてみましょう!」

「素敵、素敵!」


 まるで、女子高のノリだ・・・。お任せしておけばいいだろう。

逆らってはいけない、あきらめが肝心。

どうせもうちょっとのわたしが着るんだし、知り合いもいないしね。


「そうだ、夜会でダンスを踊るのだけど、出来るかしら?」

「こちらでは、どんな感じかわからないので、練習をすることになっています。」

「ふふふ、クローと約束でもしたのね!

滅多に踊っているのを見たことがないのだけど、リードは任せておけばいいのよ!」

「そういえば見たことがありませんわ。とても楽しみですね!」


 楽しそうな奥様たちだなぁ。

クロー様はもうすぐ帰ってくるだろう。

・・・練習前にお菓子を もうちょっといただいちゃおう!



 さっそく、大きな部屋でダンスのレッスンが始まった。

若奥様のピアノで、まずは見本にと伯爵様と奥様がくるくると踊りだした。


 日本の社交ダンスと違うのかな。

大学の時、女子大と他の大学との交流会(出会いを求めての)で、社交ダンスのサークルに見学に行ったことがあった。

わりあい簡単なステップで、上手だねと言われて嬉しくなったっけ。

もうちょっと頑張らなくても出来ることはあるのだと思った。

兄が泣いて反対するので、サークルは諦めたが。


 一曲踊って伯爵様と奥様はニコニコお辞儀をされた。

キリッとしたワンコ・・・クロー様が手を差し伸べてきた。

どうやら向こうのワルツとほぼ同じようだし、クロー様にお任せしようと、思い切って手を置いた。

流れるように踊りだすクロー様。物語の中の王子様みたいだ。

身長差もあるのに、わたしを上手に躍らせて、くるくると回る。

顔を見上げると、いつもは無表情なクロー様が、うすく微笑んでいる!

イケメンのオーラが光り輝いているようだ!

カーっと赤くなる顔を隠したくて俯くと、奥様から「顔を上げるのよ~」と注意される。

落ち着け、落ち着け。もうちょっとと言われないように頑張れわたし。


「いいわ!とっても上手!レッスンなんて必要ないわね~!」

「そうとも!お互いの信頼がダンスの基本だ!」

「素敵ですわ!」


 奥様・伯爵様・若奥様に褒められて、ホッとする。

クロー様は、つないでいた手をそのままに、わたしを庭の散歩に連れて行った。

また無表情だけど、見えないしっぽをパタパタ振っているようだ。

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