9、騎士団員と奥様たち
王宮の騎士団では、第二隊長のクローディアス・フルサルのことが話題になっていた。
「最近、第二隊長わかりやすくなったよな!」
「無口と無表情はそのままだけど、なんとなく、頭の上に天気がわかるんだよな。」
「曇っていたり、雨雲で雨降っていたり。」
「先日の大雪の天気はびっくりしたよなー。ヒンヤリした空気を感じたぜ。」
「俺は、たまに飛んできた氷にびっくりだったよ。」
「今日は晴れていい天気っぽかったぞ。」
「今日は、よっぽどいい事あったんだろうな!」
「今日の訓練・・・楽になるかもしれないぞ!」
「大雪の日の訓練は・・・死ぬところだったな・・・。」
騎士団長・第三王子ユーアティリオは、幼馴染でもあるクローに、あれこれとアドバイスをしていた。
「昨日の、花を彼女に贈ることは、うまくいったようだな。」
「(コクリ)・・・喜んでいた。」
「アクセサリーのプレゼントを断られた時は、どうなることかと思ったが。
フム・・・。第一作戦の『彼女となかよくしよう』は目標達成だな。
そろそろ第二作戦『彼女ともっと触れ合おう』だ!よし、彼女を今度の夜会に招待しよう!」
「!・・・夜会嫌い。」
「おい!彼女とダンスができるんだぞ。体が寄り添い、触れ合うことによって心も近づくんだぞ!」
「・・・(コクリ)。」
「よし!彼女を誘ってこいよ!」
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あれから次男さんは、わたしに色々なものをプレゼントしてくれるようになった。
もらって困るようなもの(宝石とか)もあるけれど、昨日のお花は綺麗だったなぁ。
一輪の薔薇をそっと手渡ししてくれた。飾ったお部屋でずっといい香りがしていたっけ。
幻想だけど、クロー様って大きなしっぽを振っている大型犬ワンコって感じで、喜んでいるのがわかる。
かまってー、かまってーと擦り寄られると、頭を撫でてあげたくなっちゃう。
無口で無表情なんて、ちっとも気にならない。
彼は心の中では、とってもおしゃべりなのかもしれない。
そっと接してくれる優しい人・・・。
次男さん・・・クロー様のそばにいるとほっと落ち着く・・・。
次の日、わたしは奥様と若奥様(長男嫁)とお茶をしていた。
「まあ~!今度の夜会に招待されたのですって!」
「はい。クロー様のエスコートで行くことになりました。」
「嬉しいわ!ドレスを一緒に作りましょう!私がお世話をするわ!」
「でもわたし持っているのがあるので・・・。」
ちょっと面倒なのであんまり行きたくないけど、クロー様に涙目でお願いされちゃったのよ。
かわいそうなワンコには逆らえない!
それに、こちらに来た時に、着ていたドレスでいいでしょ。
そうだ、一応、見てもらわないといけないかしら。
「きゃあ!かわいいドレス!見せて見せて、素晴らしいわ!
何で出来ているのかしら、つやつやしていて、このふわふわ!この透けているのもいいわ。」
「あー、シルクとオーガンジーとレースですね。」
「この国には無いものばかりよ!背中の留め具はどうなっているの?ネックレスは、丸い石?」
「ファスナーもないんですね(異世界チートは服だったか)・・・。
アクセサリーは真珠です(結婚式の標準装備だし)。貝から出来ているんですよ。」
「スカートをふくらませるのが軽いわ!」
「パニエといいます。」
「「どれも貴女に似合うわねー。かわいい!」」
「でも、もうちょっと丈が足りないから、やっぱり一枚作りましょうね!」
「お揃いでもいいかもしれません、お義母様!このレース?っていうのを作らせてみましょう!」
「素敵、素敵!」
まるで、女子高のノリだ・・・。お任せしておけばいいだろう。
逆らってはいけない、あきらめが肝心。
どうせもうちょっとのわたしが着るんだし、知り合いもいないしね。
「そうだ、夜会でダンスを踊るのだけど、出来るかしら?」
「こちらでは、どんな感じかわからないので、練習をすることになっています。」
「ふふふ、クローと約束でもしたのね!
滅多に踊っているのを見たことがないのだけど、リードは任せておけばいいのよ!」
「そういえば見たことがありませんわ。とても楽しみですね!」
楽しそうな奥様たちだなぁ。
クロー様はもうすぐ帰ってくるだろう。
・・・練習前にお菓子を もうちょっといただいちゃおう!
さっそく、大きな部屋でダンスのレッスンが始まった。
若奥様のピアノで、まずは見本にと伯爵様と奥様がくるくると踊りだした。
日本の社交ダンスと違うのかな。
大学の時、女子大と他の大学との交流会(出会いを求めての)で、社交ダンスのサークルに見学に行ったことがあった。
わりあい簡単なステップで、上手だねと言われて嬉しくなったっけ。
もうちょっと頑張らなくても出来ることはあるのだと思った。
兄が泣いて反対するので、サークルは諦めたが。
一曲踊って伯爵様と奥様はニコニコお辞儀をされた。
キリッとしたワンコ・・・クロー様が手を差し伸べてきた。
どうやら向こうのワルツとほぼ同じようだし、クロー様にお任せしようと、思い切って手を置いた。
流れるように踊りだすクロー様。物語の中の王子様みたいだ。
身長差もあるのに、わたしを上手に躍らせて、くるくると回る。
顔を見上げると、いつもは無表情なクロー様が、うすく微笑んでいる!
イケメンのオーラが光り輝いているようだ!
カーっと赤くなる顔を隠したくて俯くと、奥様から「顔を上げるのよ~」と注意される。
落ち着け、落ち着け。もうちょっとと言われないように頑張れわたし。
「いいわ!とっても上手!レッスンなんて必要ないわね~!」
「そうとも!お互いの信頼がダンスの基本だ!」
「素敵ですわ!」
奥様・伯爵様・若奥様に褒められて、ホッとする。
クロー様は、つないでいた手をそのままに、わたしを庭の散歩に連れて行った。
また無表情だけど、見えないしっぽをパタパタ振っているようだ。




