幼女と出発
「あのね。ちょっとギルドの仕事で王都へ行くことになったんだ」
あの日ノユたんに聞いたのはそんな言葉だった。
ノユたんは少しの間だけだから待っていてほしいという。
しかし、俺はそれどころではなかった。
見過ごせない言葉。
”王都”
王都と言えば華やかな国の中心地であり、王族や貴族が住んでいる大都市だ。
この国の最先端の場所である。
例え止められようとも男にはやらなきゃならない時がある。
今は幼女だが。
ノユたんに連れられて歩きながら、様々な計画を立てては却下していく。
持てる幼女力の総てを以て、頼み込む。ダメだ。断られる。
やはり、アレしかない。
俺は今、かつてないほどに燃えている。
どうやら急遽決まったことらしく、出発まで時間はないらしい。
ノユたんは準備に忙しく、俺は今日からおっさんの家にお世話になることになった。
「よろしく」
「おう、よろしくな」
「すみません。では、お願いします」
ノユたんはおっさんに頭を下げ、続いて俺に視線を合わせる。
「いい子に過ごしてね」
「う、うん」
ごめんなさい。ノユたん、俺は・・・
言いつけを守れそうにありませんっ!
俺のテンションは最高にハイってやつだ!
ノユたんたちが出発する日の朝早くに作戦は決行された。
王都に向かうのは討伐隊の人々と俺が病院にいる間にやってきたという商人たち。
加えてノユたんの他、町の住人や冒険者も何人か一緒に行くらしい。
王都までの道のりはそれなりにはあるようでこういう機会にまとまって行くらしい。
前日は高ぶる気持ちを何とか鎮めて、早めに就寝した。
それも、これも、早起きするためだ。
おっさんは早起きだが工房の準備のほか日課があるらしく出掛けていく。
これは調査済みだ。
そういうわけで今、この家の中には誰もいない。
それでも慎重を期して、耳を澄ませる。
部屋のドアをそっと開け、気配を絶ち、周囲を窺う。
そして、足音を立てないように廊下へと出て、ドアを閉める。
室内の偽装は完璧だ。
忍者か怪盗にでもなった気分で階段を降りる。
大丈夫。気配はない。
そのまま一気に裏口から外へ出る。
ここまでは心配していなかった。
勝負はこれからだ。
外に出れば、隠れる場所は少なくなる。
それでも体の小ささを活かして移動していく。
ふふっ、気分は怪盗幼女。
目的地である場所には着いた。
多くの馬車が並んでいる。
潜り込むのは荷馬車だ。
しかし、ここからは人が多い。
いるのは商人や一般人だけではないのだ。
冒険者や討伐隊の面々。
彼ら彼女らの目を欺くのは容易くない。
集中しろ。
そして、良く考えろ。
この世界で俺と言う幼女は、幼女という種族はなかなかに強い。
これまでも切り抜けてきた。
己の幼女力を信じろ。
俺が信じなくてどうする、幼女の可能性を!
そう、俺はそこらの石と同じ。
囀る鳥と同じ。
野を舞う蝶と同じ。
吹き抜ける風と同じ。
気にかける存在ではない。
彼らの警戒する存在ではない。
行けるっ!
俺は様子を観察するため隠れていた少し離れた茂みから、これまでとはギア一段上と言えるステルス性を発揮して歩く。
緊張が高まる。
周りには多くの人が行き交う。
「っ!!」
目の前で冒険者風の男が足を止める。
やはり、ダメか?
こんなあからさまに歩いていたら、流石に気付かれる。
「どうした?」
「いや、家の鍵閉めたかなぁって思って」
「何だよ、それ。心配なら、まだ時間あるから確認してこい」
「おう、じゃあそうする」
「ったく仕方ねぇな。俺の方から報告しとく。行って来い」
「ありがと。借りは返す」
男たちは会話を交わすとそのまま離れていく。
ゴクリと唾を飲み込む。
見つかったかと思ったぜ。
隠れる荷馬車はこれにしよう。
さあ、あとは出発を待つのみ。
楽しい旅の始まりだっ。




