幸福とは
「おーい!カナタ!夜飯だよー!!」
ナナミがカナタを呼びに行った。
カナタは、川に小石を投げて遊んでいた。
「…もう時間か。また変なもん入ってねーだろうな」
「んな訳ないじゃん!!そもそも今日の担当幽霊だし!!」
「…幽霊…ああ、ショウイチか…彼奴なら平気か」
以前味噌汁に変な薬を入れられて以来、カナタは食事の時にいつもそう言う。
当時はナナミ担当だったからだろう、かなり怪しんでいる様子だ。
「遅いですよ~カナタさん…もうだいぶ冷めちゃいましたよ~」
カナタが部屋に入るとほぼ同時に、ショウイチがそう言った。
確かに、料理から湯気が立っていない。
「ショウイチ~聞いてよ~!!カナタがショウイチのニックネーム忘れてたんだよ!?酷い奴だね~」
「カナタさん…かなり傷付いたんですけど…」
ショウイチはそう言うと、涙目でカナタに視線を移した。
ちなみにショウイチもカナタもホモではない。
「分かったから泣くんじゃねえよ」
カナタにストレートに言われて、ショウイチは「はっはい」と言うとご飯を掻き込んだ。
「ごちそうさまでしたー!ショウイチ味付け上手いね!」
「ごちそうさん。今日のはなかなか良かったと思うぞ」
ショウイチは、初めて料理で二人に褒められたのが嬉しかったのか、
「ありがとうございます!」と笑った。
「カナタさん?どうしたんですか?」
ショウイチはカナタの部屋に入るなり、驚いた。
カナタはいつも通りの服装ではなく、黒マントに赤いスカーフ、黒短パンという"閻魔大王"の格好になっていた。
「ん?ああ、見ての通りだ、魔力を貯めてる。明日は人間界に侵入してやろうかと思ってな」
そう言うと、カナタは薄ら笑いを浮かべた。
滅多に笑わないカナタが笑った。これは相当面白いことを考えているに違いない。
「…一人は危険ですよ…折角だから僕も行きます。ナナミさんも呼んできましょうか?」
ショウイチは忠告の意味も交えて言った。
「…いや、いい。お前だけついてこい。人数は少ない方がいい」
カナタは意味ありげな言葉を残すと、一人どこかへ向かっていった。