初授業
高校生活最初の授業は数学だった。
先生と生徒の自己紹介が終わり、一段落ついたところで髪が薄く、背も低く、太りめの数学教師の授業が始まった。
「(やべえ、教科書なんも持ってきてねえんだよな。)」
初日から教科書を持ってこないとはいい度胸である。しかし、大森陽太郎とはそういう男なのだった。
「おーい。大島、教科書くれ。」
と大森が後ろから小声で話しかける。
「はあ?さっそく忘れたのか?隣に見せてもらえばいいじゃん。」
しょうがねえな・・・と、ぶつぶつ言いながら大森は隣の席に座っているお嬢様っぽい人に話しかける。
「悪いんだが。教科書見せてくれないか?」
コクリとうなずくお嬢様。
「あと、次と次と次と次と次と次の時間も見せてくれ。」
「なんも持ってきてないの?」
少々戸惑うお嬢様。
「弁当と携帯と財布は持ってきた。」
なんでこんな人が私と同じ学校に・・・?、と思うお嬢様。
そして席をくっつける。くっつけたのはいいが、教師の視線が気になる。
「そこ。どっちが忘れたんだ?」
案の定、教師が聞いてきた。
「オレです。」
「初日から忘れたのか?」
「はい。」
「お前、高校をなめてんじゃないか?筆記用具も持って来ないなんて。隣の君。そんな奴に教科書を見せる必要はない。」
「え・・・?」
さらに戸惑うお嬢様。
「・・・・・」
大森も黙り込む。
「(どうしましょう・・・。)」
考えるお嬢様。そして。
「せ・・・先生。さすがに可愛そう・・・だと、思います。」
勇気を振り絞り、途切れ途切れの口調で話すお嬢様。
「なんだ。お前、教師に口答えするのか?」
「いや・・・私は私の意見を言っただけで・・・。」
「オレの授業が気に入らないなら授業を受ける必要はないぞ!」
「ちょーっと待ったあ!」
三浦が割り込む。
「先生!オレもさすがに可愛そうだと思います!」
「(なんか面倒なことになってないか・・・?)」
と、思う大森をよそに口論は続く。
「なんだ三浦。お前もか?」
「いいや!私もです!」
大島が割り込む。
「理不尽だと思います!大森くんも反省しているようですし、許してもいいでしょう?」
「(眠い・・・。)」
肘をつき、頬に手を当て、足をくんで面倒くさそうな態度をとっている。
「そいつのどこに反省の意があるというんだ!?」
と、そこで。
キーンコーンカーンコーン。
チャイムだ。自己紹介に時間をかけたのが幸いした。
「ちっ。どいつもこいつも・・・。今日の授業はここまでだ。大森、金成、大島、三浦はあとで職員室に来ること!」
「(今日は帰ってたくさん寝るという重要な予定があるから無理だな・・・。それにしても・・・。)」
「悪いな。」
「おお!珍しくもりりんが謝罪してる!」
「うるせえよ、大島。それと、もりりんはやめろ。」
「かなりん。もりたろうが謝罪するのはものすごいレアなパターンだよ!」
「だから、その呼び方はやめろっつの。」
お嬢様の名前は金成咲花。長めでストレートの髪。身長は150ぐらいだろうか。気弱そうな顔立ちだが、幸の多そうな人物である。
「ったく。あの先公ひでえよな!」
と、三浦が話しかけてきた。
「陽太郎、安心しろ!このオレ様がいる限り理不尽に怒られることなどない!あとで職員室に殴り込みだー!」
「おー!」
と、意気投合した三浦と大島。
一番最初からこんなんで本当に大丈夫なのだろうか?と思う金成であった。