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祝福の鐘  作者: 吹雪桜
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中編


本当は知っていた。ヴィンラージとフィリアが想いあっていることを。

マリィアがヴィンラージの婚約者になったために二人は従兄妹のままでいるしかなくなったことを。

知っていた。知っていたけれど、マリィアはヴィンラージが好きだった。誰にも渡したくなかった。だから頼んだのだ、両親に。

ヴィンラージが好きなのだと。一緒になりたいのだと。


そうしてヴィンラージはマリィアのものになった。たった一人の夫となった。

たとえ大切な従妹が影で泣いていても、最愛の夫がこちらを想ってくれなくても満足だった。

娘が生まれて、息子も生まれて。それでもヴィンラージがマリィアと同じ想いを返してくれることはなかったけれど、


幸せですか?

幸せよ、私は。


そう答えられるくらいには幸せだった、のに。




「…もう一度言って」

震える体。それを叱咤して、目の前で跪く男に言えば、男は顔を伏せたままマリィアに再度告げる。

「ヴィンラージ殿下の生死が不明との報告が入りました」

「嘘!」

悲鳴のように声を上げる。

生死が不明?ヴィンラージの生死が、分からない?

「マリィア様」

「だって、だって帰ってくるって…!戦争には勝ったんでしょう!?」

「はい」

「なのにどうして…!!」


戦争に行くと言ったヴィンラージ。

必ず帰ってきてと言ったマリィアに、ああ、と頷いたヴィンラージ。

戦争に勝ったのだという報告に国は湧いて。マリィアも歓喜して。ヴィンラージが帰ってくる。約束通り帰ってくるのだと安堵して。

なのに、帰ってこない、だなんて。


「ああ…!!」


泣き崩れるマリィアに、誰もが悲痛な表情で唇を噛んだ。











ヴィンラージの生死が判明しないまま、十年の時が過ぎた。

当時六歳だった娘は隣国に嫁ぎ、三歳の息子は王太子だったヴィンラージに代わって王太子を継いだ。

マリィアはまだ年若い息子を支えながら、今もまだヴィンラージを想い続けていた。

そんなある日のことだ。娘から手紙が届いた。


もしかしたら、お父様かもしれません。


夫について訪れた国で、その姿を見たのだと。はっきりと断言することはできないけれど、記憶の残る父の姿に似ていたのだと。そしてその隣には母であるマリィアによく似た女性がいたのだと。


それを読んで一番初めに思ったことは、ああ、そうだったのか、だ。

マリィアによく似た女性。ヴィンラージが隣に置く女性。そんな女性は一人しか思い浮かばない。フィリアだ。

フィリアはマリィアがヴィンラージと結婚して一年後、姿を消した。フィリアの両親は行方を知っているようだったが、ヴィンラージがどんなに問い詰めても頑なに語らなかった。

だからヴィンラージもそれ以上問い詰めることを諦めた。そしてフィリアの行方を探す素振りもなかった。


諦めたのだと思っていた。

フィリアのことは心配だったけれど、行方を彼女の両親が知っているのならば大丈夫だと思った。

そして安堵した。ヴィンラージの手が届くところにフィリアはいない。万に一つの間違いも起こらない。


とんだ思い違いだ。


ヴィンラージは知っていたのだ。フィリアがどこにいるのか、それを知っていたのだ。

どうやって知ったのだろう。フィリアの両親から聞き出したのだろうか。マリィアに気づかれないように探していたのだろうか。

分からないけれど、ヴィンラージはフィリアの居場所を知っていた。そして追いかけていったのだ。後継者だけ残して、そうしてフィリアを手に入れるために全てを捨てて追いかけていったのだ。


分かっていた。私は幸せだった。

分かっていた。ラージ兄様は私を愛していなかった。


マリィアは娘の手紙を手にしたまま、窓から見える空を見上げた。

流れる涙は、どんな意味を含んでいるのだろうか。分からないけれど、マリィアは目を伏せた。


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