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祝福の鐘  作者: 吹雪桜
1/4

前編


「ラージ兄様」


そう呼ぶのは父の妹たる人の一人娘、マリィアだ。


「ヴィ」


そう呼ぶのは父の妹たる人の娘、フィリアだ。


マリィアとフィリアの母は双子の姉妹だった。そのためか、二人は姉妹と見間違うほどによく似ていた。

その二人の従兄であるヴィンラージは、血の繋がりが分からないほど、二人と似通うところがなかった。

それでも従兄。三人は仲が良く、幼少期は共に遊び、青年期に入っても時々は一緒に日々を過ごしていた。


マリィアとヴィンラージの婚約が決まるまでは。






見つけた。

ヴィンラージは探し人の姿を見つけ、名を呼ぶ。


「フィリア」


声に振り向いたフィリアは、母親譲りの緑の目でヴィンラージを映す。金の髪がさらりと揺れた。


「ヴィ。どうしたの?」

「お前の様子が可笑しいからだろうが」

他の誰も気づかないこと。そうあるようにフィリアが振舞っているのだから当然だが、それにヴィンラージが騙されたことはない。騙されるつもりもない。

それを知るフィリアはくすりと笑う。

「あら、やっぱりヴィには分かってしまうのね」

「吐け」

「…どういう聞き出し方?もう」

そんなだから怖がられるのよ?と続けるフィリアは、だからどうした、と言わんばかりの従兄の態度に肩をすくめる。

顔の造作はいいのに、基本無表情、無口のこの従兄。集う女性は数あれど、その全てがその冷たい視線に臆してしまう。そのせいで冷たい、怖い。そう噂されているのだ。

長い付き合いのフィリアは知っている。ヴィンラージが優しいこと。温かいこと。だから時々違うのだと言いたくなる。言ったところでヴィンラージの態度が変わらない以上、意味のないことだから言わないのだけれど。

「フィリア」

そんなフィリアにヴィンラージはむっとしたように名前を呼べば、ふふ、と笑い声。

「大したことじゃないの。ただ少し先のことを考えていただけ」

「先?」

そう、先、とフィリアが目を伏せる。

その姿に何故か心の臓が冷えた心地がしたヴィンラージが口を開く。フィリア、そう呼ぶために。

けれど少し強く吹いた風にフィリアの髪が流れると、フィリアが目を開けた。ヴィンラージが口を閉ざすほどに強く、何かを決めた目を。


「ねえ、ヴィ。マリィを幸せにしてあげて」


ヴィンラージが返すのは沈黙だ。

つい先日決まった婚約者。ヴィンラージとフィリアの従妹。ずっとずっと一緒にいた大切な従妹。

なのにヴィンラージは頷かない。フィリアの目を見返すも、頷かない。


「ね?」

「不幸にはしない」

「…幸せに」

「不幸にはしない。それ以外は頷かない」

「ヴィ」


硬い表情のフィリアは、けれど苦しそうに目を揺らした。そう答えるヴィンラージの気持ちを察することができるからだ。だからそれ以上は言えない。強要など、できない。


「フィリア」

「ええ」

「愛している」

「…っ」

「愛している」

「…私も、愛してるわ」


重ねた唇はこれが最初で最後。

もっと早くに口に出せばよかった。互いの気持ちはとっくに分かっていたのだから。


もう、共にはいられない。











鐘が鳴る。

祝福の鐘が鳴る。


白いドレスを身に纏って歩いた従妹。行き着く先で待つ従兄。それを微笑んで祝福した。

従妹は幸せそうに笑っていて。向かい合う従兄は無表情で、従妹を通り越してこちらを見ていた。


祝福の歌が流れて。

祝福の声が注がれて。


二人の婚姻が為された瞬間、唇に触れた。愛する人の唇と重ねた唇。

目を伏せる。


幸せになって、マリィ。

幸せにして、ヴィ。


その気持ちに嘘なんてないのよ。


鐘が鳴る。

祝福の鐘が鳴る。

流れる涙は何の意味を含んでいるのだろうか。


鐘が鳴る。

祝福の鐘が鳴る。

この鐘を、自分のためには生涯聞かない覚悟を決めたことを、今はまだ誰にも言っていない。


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