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13/22

父

GKってポジションは不思議なポジションです。

サッカーなのにエリア内では手を使うことを許されている。

でも、ゴールからは1番遠いところにいますからね。

長い距離を見て、蹴る必要もあるんです。

つまり、1番近い距離で守り、1番遠くで攻撃するポジションなんですよね。

私がこのポジションについたのは、中学校の時、サッカー部で背が1番高かったんです。小学校までは、同じ理由でバレーボールをしてました。でも、友だちと遊びでやってたサッカーが大好きで、中学の部活はサッカー部に入ったんですけど、顧問にスカウトされて1年から正ゴールキーパーでした。

バレーボールをやっていたので飛んでくるボールの正面に入る癖があり、ジャンプも横っ飛びも同じ動きがあるから、初心者にして経験者みたいな感じです。ゴールキーパーは希望するのは経験がない者か、走るのが嫌な者で、サッカーしたい人はフィールドプレイヤーが希望なんです。だから顧問の先生は、選ぶんですよね。希望聞いてたらサッカーになりませんから。

私は、バレーの経験もあり、身長もありましたから先生にとっては「当たり」だったようで、重宝されました。身長が伸びたのは中学までで、周囲の身長が伸びてきたら埋もれてしまいましたが、高校までは正キーパーとして、サッカーを楽しむことができましたね。

そう、キーパーってピッチが全て見えるから楽しいんですよ。

ゴールキックを蹴った後は、しばらくサッカーを楽しむんです。「7番マーク!」「中切って」サッカーゲームのように後ろから人を動かすのがキーパーの楽しみ方のひとつです。うまく動かせれば、ゴールキーパーまで攻撃されませんから。コーチングして、動化して守ってもらいます。今の仕事にもつながるんですが、危機管理ですよね。たとえ攻撃されたとしてもコースが限定できていればゴールは守れます。かっこよくセーブしてヒーローになるのが好きでしたねw

ミドルが打てる位置のフリーキックやコーナーキックはゴールキーパーの差が出ますよね。力の見せ所です。守り方は練習してますが、サッカーの面白いところは、相手の出方はこちらの練習通りにはいきませんから。相手の動きを見てキーパーが指示を出して調整するんです。相手もこちらを分析してデザインされた攻撃をしてきますから、駆け引きです。私は、配置とか適材適所とか考えるの好きなんですよ。ピッタリハマった時、気持ちいいです。

駆け引きで最も気持ちいいのは、PKですね。緊張ですか?しますよー半端ない緊張です。正直、あの距離で止めるのは難しいです。視線とか、軸足とか、蹴り足の向きとか。判断できるまで我慢するんですけど、相手もそれは同じですからね。私が動くのを見極めて蹴ってきます。

動くのを読まれて失点した時は悔しいですよ。逆に読み切って止めたり、我慢することで相手にミスをさせたり、駆け引きに勝った時は爽快です。

蒼がキーパーとの駆け引きが上手いのは、私と練習してきたからだと思います。私は決して娘相手でも手は抜きませんからね。毎回、絶対、止めてやるって思ってます。だからこそ、楽しいんですよね。

あ、でも蒼が子どもの頃は「なんで全部止めちゃうの!」って泣かれましたw

蒼はゴールするのが楽しいように、私には止めるのが楽しかったんですよね。楽しいことはやめられませんよね。

サッカーって、ラグビーほどポジションの適性がはっきりしてるわけじゃないけど、ゴールキーパーだけは間違いなく適性はあると思います。中学の時の部活顧問は適正を当てたのだと思います。

大学は、サッカーで選んだわけではないので、体育会とはいえサッカー部は強くはなかったんです。

ゴールキーパーには、私より適性を持った選手がいたので、私はフィールドプレイヤーをしていました。

サッカーは楽しかったですよ。

ボールを蹴るのは好きでしたから。

でも、なんか違うんですよね。

前しか見えない。

後ろが気になる。

「そこ危ないよ」って言いたくなる。

ボールが自分より後ろにあるのが落ち着かない。

ああ。

私、ゴールキーパーだったんだなって。

失って初めて気づく、というほど大袈裟な話ではないんですけどね。

私にとってサッカーをするって、ゴールを守ることまで含めてサッカーだったんです。

結局、大学を卒業して、父の会社に入りました。

仕事が忙しくなって、サッカーからも離れました。

娘がサッカーを始めてからは、また見るようになりましたけどね。

蒼が走って、抜いて、ゴールを決める。

いいなぁって思いましたよ。

娘が活躍してるからじゃないですよ。

ピッチにいることが。

だから、蒼から電話が来た時は驚きました。

「パパ、りんが40歳以上のゴールキーパー探してるよ」

ゴールキーパー?

「やる?」

やる?じゃないですよ。

やりたいに決まってる。

それで、電話する前に走り始めました(笑)。


久しぶりにゴールマウスの前に立ちました。

思ったより、小さく見えなかった。

むしろ、こんなに広かったっけ、と思いましたね(笑)。

「パパ!右!」

蒼じゃない。

鈴さんの声だった。

ボールが来る。

正面に入る。

抱える。

顔を上げる。

ピッチが全部見えた。

ああ。

これだ。

「航さん、開いて!」

「律さん、前!」

声が勝手に出る。

ゴールから一番近いところで守って、

一番遠いところまで見て、攻撃する。

ずいぶん長いこと離れてましたけど。

やっぱり、ここが私のポジションです。

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