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いつか、呼べる名  作者: 塩治房智
第一幕 第一部
19/23

幕間 其の二 追憶

――ヴァルトが帰還してから二日目。彼らは、まだ太陽が昇りきらぬ中、裏山にいた。淡い光のなかで、闘志が息をしていた。

 

「よっしゃ。んじゃあ、いっちょやるか」

 ヴァルトが木で出来た短剣を、彼らに向ける。右手は使わずに、背の後ろに回した。

 そして、笑う。

「かかってきな。小僧ども」


「この野郎。今回こそ一本取ってやる」

 ガレオンが鼻を鳴らす。三対一という数的有利で行われる模擬戦。幾度となく行ってきたそれで、一度も兄に勝てたことはなかった。

 これに勝てば、魔法の話をしてくれる。そういう約束だった。


「お前ら……無茶すんなよ」

 コーネルは座りながら、その様子を眺めていた。


「ルカ、ガレオン。二日前の戦闘を思い出せ。あれで行く」

 ガレオンが切り込み、ルカが隙を突く。それを自分が調律する。

 その声に二人は頷く。統率は、取れている。昨日のヴァルトの言葉はまだ上手く咀嚼できていない。けれど、役割は全うする。


 すんでガレオンが踏み込む。先日の戦闘より鋭かった。

 "英雄還り"を自覚し、それでも驕らず昨日も剣を振るった彼に、一昨日の動きの固さはなかった。

 力みのない腕から振り下ろされる木剣は、不発だった。

 足を円のように滑らし、ヴァルトは剣閃の軌跡から逃れていた。

 勢いのまま、前傾になったガレオンの背を短剣の柄で叩く。

「いい打ち込みだ……っと!あぶねえなてめえ!」

 感想を述べようとした矢先に、礫がヴァルトの頭のすぐ横を通る。髪先に少しだけ触れた。

 ミツヤだ。初撃が避けられることを想定して、いつでも追撃ができるように、石を持っていた。


 体勢が崩れたことを逃さず、ルカが足を狙って横に剣を薙ぐ。狼の群れのときとは違う。守るための動きではなく、攻めの姿勢。

 ヴァルトは右足を地から上げ、それを避けた。


 ミツヤが距離を詰め、剣を振るう。それは短剣で受け止められたが、ガレオンの打ち下ろしがさらにヴァルトを襲った。ごうっ、と唸る木剣は真っ直ぐに落ちる。

 ヴァルトの頭に当たるかと思われたその一撃に、コーネルは息を呑み――ばちん。

 大きな右手によって受け止められていた。


「おー、いてて……」

 兄は己の手に息を吹きつけ、仰ぐ。

 

「やった……!やったぞお前ら!兄貴の野郎!右手使ったぞ!」

 ガレオンの歓喜にコーネルも、おお!と歓声を上げた。

 ルカも思わず笑った。息が、ひとつに重なる。

 そして、ガレオンとぱちん、と互いの手を叩いた。

 

「ふぅ……まずは一回目だな。兄さん。次回からは両手か?」

 ミツヤの問いかけに、兄は嬉しそうに笑みをこぼす。

「見事だった。二億回の挑戦の中で、今まででダントツでいい仕掛けだったぜ。次は両手と、両足だな」

 その声に彼はハッとした。地面を見ると左足を支点に、円ができている。兄は、左足を動かさぬまま、戦っていた。

 いままで、数え切れぬほどやってきた遊び。これまでそれに一度も気づくことはなく、いま、"英雄"の強さの深みに少し触れた気がした。


「いや、二億回もしてねえだろ」

 コーネルのツッコミに、一同は笑った。


「おめえさんらなら大丈夫だ。強くなったな」

 その言葉は朝霧に溶け込んでいく。

「チビどもが起きるといけねえ。そろそろ戻るぞ」

 五人は、帰路につく。

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