零話 でも、生きている。
雛鳥たちは、親鳥を待つ。
飛び立てるようになるまで親に守られ、育てられる。
けれど、もし。
親鳥が帰ってこなければ?
兄弟を奪われたら?
彼らはどうするんだろう。
それがいつも、ふとした拍子に頭をよぎる。
何気ない幸福な日ほど、余計に。
◆
寝転び、手を太陽にかざす。そうすれば、体の中に血が巡っていることがわかる。
生きている。
丘には風が夏の匂いを運んでくる。
赤い髪を靡かせて、少年はそれを感じていた。
母を失ったあの日から、心に穴が空いている気がする。
泣けば楽になるのかもしれない。けれど、泣くのだけは許せなかった。
でも、少しずつ、家族たちが塞いでくれる。血は繋がっていない。けれど、だからこそ互いに背を預けることができる。
兄に連れられて、孤児院の門を叩いた。初めて会った父は、とても恐ろしい顔をしていたのを覚えている。
土の匂いが、変わるのがわかった。きっと雨だ。
木の幹にこさえた巣に、親鳥が戻ってくるのが見えた。
「おーい。ルカー。そろそろ帰るぞ」
兄弟たちの声が聞こえて、立ち上がる。
「わかった。すぐ行くよ」
体を起こし、首飾りを直す。
遠くで、何かが光る。きっと、雷だ。
不意に右の手のひらが熱くなった。
それはなぜか、懐かしい感触だった。
そして、その熱の懐かしさが。
僕ではなく、誰かの物のような気がして、少しだけ怖かった。




