第7話 なぜそこにダークエルフ娘が!?
ダークヘイムで出会った鍛錬爺さんと別れ、複数の冒険者の反応がある湿地帯に向かおうとしたが、ものの見事に大森林地帯のぬかるんだ地面に足を取られた。なるべく木々が生い茂り乾いた地面が続く場所を探し歩いていたのだが。
……やっちまった。乾いた場所ばかり進んできたから油断してしまったな。
大森林地帯の多くは乾季に関係なく高温で湿潤な環境だ。そのせいか、池ではなく小さな沼があちこちにある。沼に近ければ近いほど水棲の魔物や着生植物などが数多く棲息していて気が休まらない場合が多い。
油断すると足を取られたり身動きを封じられる場合があるので進むのにも神経を思いきり使う。
……とはいえ、ここまで来ると今まで出会えなかった複数の冒険者パーティーに遭遇する確率がかなり上がり、俺の店を利用した客がすぐに見つかる可能性がある。
実際、大森林地帯を歩いていたら俺の道具の反応があった。つまりここは多少危険を伴ってでも沼地を歩く必要があるわけだ。
さらに言えば、冒険者クラスが高い者なら知っているかもしれないが、ここにいくつかある沼のうち一か所だけ隠された入り口がある。そこには魔法王国が存在し、魔法道具を使う者が数多く暮らす。
まして王国には冒険者ギルドもあるので、俺が行かないという選択肢は必然的に消える。
沼地の王国を目指しつつ魔物に遭遇しないように気を付けて進んでいた俺だったが、やはり高温な気候は体に堪えてしまう。
無理して歩いても疲れるだけなので休みながら歩いていると、三、四人の冒険者パーティーが何かと戦っている場面に遭遇する。
「……ん? 言い争う声が聞こえるが揉め事か?」
冒険者パーティーがいる場合、大抵は魔物と戦っている場合が多数だ。しかし、聞こえてくる音は金属同士がぶつかった時に響くような重厚な音ではなく、どう考えても抵抗する声にしか聞こえない。
あまり関わりたくないが、あのパーティーの中に反応があるので仕方なく近づく。
「あ~、そこの冒険者諸君! 何か悩みでもあるのか? もしくは不満でもあるなら遠慮はいらん! 通りすがりのレンタル道具屋だが俺が話を聞いてやるぞ」
今まではソロ冒険者や旅人といった者ばかりだったが、いざ冒険者パーティーに出会うとどういう切り出し方をするのが正解なのかちょっと戸惑う。
「何だぁ? 何でおっさんが一人だけでここにいるんだ?」
ごもっともな話だ。
「あっ! あ、あんたは――王都の……?」
「ほ、本当だ……王都のレンタル道具屋のおっさんに似てる……」
「え、何でいるの?」
似てるんじゃなくて本人だが、店を休んでここにいるとは思ってないだろうな。 冒険者パーティーは男が三人、女が一人の四人パーティーのようだが道具の反応があるのは二人だけだ。
だが、そのうちの一つは使用したっぽいな。またしても失敗の匂いがするが。
「俺のことはともかく、貸した道具はきちんと使っているか?」
俺の問いかけに三人の男女は顔を見合わせて、残る一人の男の顔色を気にしている。王都で見てない顔だな。
なるほど。
揉めていた声を出していたのはこの男か。冒険者パーティーのどの立場か知らないが、随分と大兵肥満の男だな。
「あぁ? 道具だぁ? それならとっくに食わせてやったぜ?」
「……眠り草をか? 誰にだ?」
眠り草はそのまま食すものではなく、休息の時に煎じて飲めば全身疲労を回復させて力を上げる効果があるのだが、そのまま口にするとちょっとした副作用が起きる可能性がある。
副作用は個人差があるが、可能性が一番高いのは衰弱状態に陥ることだ。煎じて飲んで眠れば力を高めるのに対し、草を生で食すると毒性が高まって逆効果になるが果たして。
「草をそのまま食べさせられた奴はどこにいる?」
「通りすがりのおっさんに教える義理はねぇな」
そう言うと思っていたので、この男はこの際相手にしないとして店で見た冒険者の客に訊くことにする。
「――間違った使い方をした道具は実費で返してもらうことになるが?」
「えっ……お、おれはあいつが急かすから渡しただけで、おれが使ったわけじゃ……」
「お前たちも同じ考えか?」
他の二人は無言で首を横に振り、何も答えられなくなっているようだ。だが誰に使ったのかを知らないことには対処のしようがないので、答えるつもりのない面倒な奴だけ一時的に浮いてもらうことにした。
「眠り草をあの男に貸したあんた。これをあの男に手渡してくれ」
「それは?」
「通りすがりの詫びだ」
「わ、分かりました……」
まずは抵抗する輩をこの場から離しておく。
――少しして。
「うっ! うおああああああああああ!!!」
大兵肥満でもきちんと浮いてくれたな。
「な、何を渡したんですか!?」
「飛竜の羽根だ。手にするだけで一定時間だけ浮くことが可能だ」
上空から大森林エリアを眺める機会もないだろうし堪能してもらおう。
「ごっ、ごめんなさい!! 眠り草を食べさせた人はこの奥の大木に縛り付けています。鉢合わせた時に抵抗されたので、縛らせてもらったんです」
観念したのか、女冒険者がそう言いながら俺をその場所に案内してくれた。
「――ん? 女……?」
「ダークエルフの女性ですが暴れて大変でしたので縄で……。それと、魔法を使われる可能性もありましたので仕方なく……」
大木に縛り付けられていたのは、俺とダークエルフの爺さんが話をしていた時にこっそり覗いていた娘だった。
「なぜそこにダークエルフの娘が!?」
まさかと思うが、俺の後をついて来ていたのか?
「あなたが通りすがった辺りに眠り草を口にさせたので、そろそろ目を覚ますかと……」
「やれやれ……」
俺を追いかけてきたのはともかく、冒険者パーティーと揉めるとは流石の本人も想定していなかっただろうな。
暴れて抵抗したとはいえ間違った使い方で眠らされるとは、なんて不憫な娘だ。しかし間近でまじまじと眺めると、やや褐色の肌と銀に光る長い髪、そして長い耳をしていてかなり綺麗な女性に見える。
爺さんにバレたら冒険者パーティーと争うことになりそうだな。
「……う、ううううぅ……」
特に知り合いでもないが、爺さんの血縁者であれば助けないわけにもいかないので、娘が起きるまで見守ることにした。
「あ、目覚めそうです」
「何が起こるか分からん。あんたは他の男達と少し離れていてくれ」
「は、はい。ごめんなさい」
さて、どんな反応を見せるか。
「ううぅ……あ――あなたさまは、あの時の!」
どの時だ?
……というか、眠り草の副作用のせいなのか俺のイメージとかけ離れるくらいのお嬢様言葉なんだが。
「俺はアクセル。ダークエルフの爺さんと一緒にいた男だが、あんたは?」
「わ、わたくしは……誇り高きダークエルフの娘、シャンテ・アレオン……あなたをお探ししていました。どうかどうか、わたくしを連れて行ってくださいませんか?」
大木に縛り付けられたままでお願いされてもって話になるが、眠り草の副作用じゃなく素の姿がこれなのだとすれば、連れて行くのに迷いが生じてしまいそうだな。
少なくとも俺より強いだろうし、一緒に歩くパートナーとするならかなり助かるところだが。
「そ、そうだな……とりあえずその状態から解放してから話を聞く。だから、大人しくそのまま待つんだぞ?」
変に緊張してしまうくらい美しい娘だ。
俺は離れたところにいる女冒険者を呼び戻し、縛り付けの縄を緩めてもらうことにした。
「アクセルさま……アクセルさまのお役に――」




