第38話 簡単すぎたレクチャー旅
「うおおおおおおおお!!!」
などと、武器を片手に好戦的な奴らが四、五人程度。様子を見る連中が十人、そして道具の使い方が未だに分からず、判断に迷っている奴らが十人以上。
こんな奴らが他国に迷惑をかけていたというのだから、俺が貸した道具がそこまで人を狂わせてしまったのかと心の中で反省中だ。
だがここにいる奴らにさえレクチャーし終えれば、俺の長きにわたるレクチャー旅も終わりを告げる。
それが見えている以上、相手が好戦的であろうとひるむ必要はない。
こんな奴らに油断はしないが、ここまで俺を慕ってついてきた彼女たちには余裕たっぷりな笑顔を振りまいておこう。
苦しそうな場面を見せると、王都に帰った後にお情けで看病される羽目になりそうだからな。
そう思いながら、俺に熱視線を注ぐ彼女たちに手を振ってやったその直後。
「あああぁぁ、アクセル様~! よそ見をしていては攻撃が当たってしまいま――」
「こら~アクセル!! ぼさっとしてる余裕なんてないはずでしょ! 間近に敵が迫ってるわよ! 早く何とかしなさいってば!!」
……などなど、声援から悲鳴に変わっているので襲ってくる奴らに目をやると、間近というかほぼ至近距離にいて、俺に武器を振り下ろしていた。
そればかりではなく、さっきから腹の辺りがくすぐったいと思っていたが水平切りで連続的に攻撃している奴が代わる代わるで同じことをしてきている。
しかし、こいつらは何でこの期に及んで俺に手加減をしてきているのか。
仮にも冒険者程度であれば、魔物を倒せるレベルは持ち合わせているはず。それなのに俺に攻撃を仕掛けてきているこいつらの力は、全く力が込められていない。
いくら俺がただのレンタル道具屋のおっさんだからって、力を入れずに攻撃してくるのは舐め過ぎじゃないのか?
「おいおいおい、お前らは世界各地で迷惑な行動をしてきたんだろ? それなのに俺に対して攻撃の質を落とすどころか、まるでやる気がないのはどういうつもりだ?」
「……ち、違う」
「こんなはずじゃ……こんな…………」
「ああん? なにをぶつくさと言ってる? これだけ至近距離で武器を使ってきてるってのに、何なんだそのへっぴり腰は! もっと俺にやる気を出させてみろ!」
俺を取り囲み、そのまま一斉に襲ってきた奴らは、まるで寸前に硬直状態にでも陥ったかのようにてんで動かない。
これではレクチャーのしようがないんだが、どうすればいいんだこれは。
「この光景、実に恐ろしいですね……」
「でしょ? シャンテはこれが見たくてアクセルのそばにいたかったのよね? わたしも若い時の自分の行動を恨みたくなったもの」
「え、えぇ……ですが、こうして間近で見るとその恐ろしさがよく分かりますし、あの時アクセル様に勝てるかもしれないなどと思ったわたくし自身を悔い改めたいと思っているところです」
「……だろだろ~? 聖女のあたしがアクセルを認めた理由はまさにそれなんだよなぁ~手を出さなくて良かったってな」
アクセルが冒険者連中と交戦している最中、彼を見つめる彼女たちは顔を蒼白させながら自分自身に対し、口々に嘆息を漏らしていた。
そんな彼女たちに加え、攻撃の意思を失っている連中は聖女に向けて膝をつき、次々と頭を下げて降伏の意を唱え出した。
「聖女様。おれたちが間違っていた……レンタル道具屋のおっさんが、あんな化け物だったなんて知らなかったんだ……」
「あ、あぁ、それはこちらも同じだ。王都の道具屋があんなレベルだったとは正直言って想像を遥かに超えている。あんなの、もうおかしいだろ」
「あの人のレクチャーを受け続ければ、あの強さに到達出来るんだろうか……あぁ、ちくしょう……足の震えが収まらねえや」
……などなど、アクセルが知らないうちに聖女アルマ、すなわちアルゾス共和国に対し反抗してきた者たちの大部分が降伏。
残るのは、アクセルに攻撃をし続けている輩のみである。
「……ひっ、ひいいいい」
「そう怯えるなよ……。いいか、そのバトルアクスはな、単純に振り下ろすだけじゃ効果を発揮しないものなんだ。冒険者なんだから多少の魔力くらいはあるんだろ? そいつは魔力を込めないと駄目な武器で――って、何だ、気を失ったのか?」
どいつもこいつも使い方がまるでなっちゃいない。
こいつら全てじゃないにしても、王都の俺の店を利用しながら全く話を聞かずに外に迷惑をかけまくっていたのかと思うと、はらわたが煮えくり返りそうなんだが。
だが俺に多人数で攻撃をしてきたくせに全然ダメージを与える奴がいないのはどういう冗談なんだ?
まさかと思うがアルゾス共和国の仕込みとかいうやつでは?
あのE級だってそうだが、テレポートでかなり遠くにいたはずなのにどうしてそいつもこの場所にいるのかが不思議でならない。
共和国がこんな猛者ばかりを集め、俺に対し接待イベントを起こすのはどういう狙いがあるのか。
アルマに問いただせばすぐに分かりそうなものだが――
「――あのあの、アクセルさま。ボクの見立てではアクセルさまを襲う者は完全にいなくなってる気がしてるにぅ」
「……ん?」
ああ、そういやシャンテたちが俺を見守っている一方で、賢者猫のリミアは俺のすぐそばにいるんだったな。
「リミアはなぜそう思うんだ?」
「アクセルさまの力の賜物だと思うからにぁ。道具の全てを知り尽くしているアクセルさまだからこその強みが、襲撃者たちを戸惑わせてしまったからに他ならないにぅ」
「道具の全てか……まぁな。俺にはそれしか出来ないからな。人にレンタルする以上、知り尽くしておくのは当然だからな。しかし、だからといってさっきまで俺を襲ってた奴らが攻撃するのを放棄する理由にはならないと思うのだが、それについてはどう思うんだ?」
「それは分からないにぁ……」
俺がそう言うと、リミアは猫耳をへたらせてしょんぼりしてしまった。ううむ、賢者といっても流石に答えられない感じか。
「……強く言うつもりはなかったんだが、悪いなリミア」
「大丈夫にぅ。それはそうと、アクセルさまに歯向かうものはいなくなったけど、レクチャーは終わりなのかにぁ?」
長かったのか短かったのか何とも言えないレクチャー旅だが、悪さをしていた連中がアルゾス共和国に集められたのは間違いない。
その連中がこの期に及んでやる気を見せなかったところを見れば、俺のレクチャー旅はここで終わりを迎えることになりそうだが――。




