第36話 試されるおっさん
「……ほぅ? アクセル。余を疑っておるのか?」
「そうじゃないが、ただのレンタル道具屋の俺に何をさせるつもりがあるのかと思ってるだけだ。この国にいるわけじゃないんだろ?」
「ん?」
「俺の店から借りた道具を使って悪さをしてる連中のことだ。いるうえで俺を呼んだのであれば、どういうつもりなのかと問いただすところだ」
王都を出てしばらく経ったうえ、聖女の国にまで来てしまったしな。最初から俺狙いで噂を広めた、あるいはその連中がここにいるとなればここで全て片付くことになるが果たして。
「にぁ? アクセル様、アルゾスはなんにもしてないにぅ。でもでも、ここに腕の立つ冒険者がたくさんいるのは確かなのにぁ」
「冒険者がいるんだな?」
「そうにぁ」
リミアがそう言うならそうなんだろうが肝心の幼女、いや大統領の反応は――
「――うむ。リミアの言う通りなのじゃ。アルゾス共和国、余は強者を常に求めておるのじゃ! それゆえ、S級の冒険者パーティーも呼んだのじゃが……アクセルに屈してしまった以上、すでに用はなくなってしまったのじゃ。じゃが、お前の道具を手にした強者が各地で迷惑をかけたのも事実……」
……ん?
つまり噂の出所というより、アルゾスがその連中を集めて動かしていたということか?
「そいつらは今――?」
「すでに捕らえておる。お前が貸していた道具を誤った方法で使い、地割れを起こす者、小国への航路を遮断させてしまった者など、様々いる。なまじ腕が立つ者が手にしてしまったばかりに……アクセル、すまぬな」
「……貸した俺にも責任があるからな」
「いいや、そなたは悪くない。そこで相談なんじゃが……」
もう読めてしまったが、一応聞いておくか。
「この国に捕らえている者からそなた自らがレクチャーを果たし、道具をそなたの元に戻してもらいたいのじゃ。そうすれば、アクセルが覚えている限りの道具を返すことになると思うのじゃが、どうだろうか?」
俺の拙いサーチ反応は、ものの見事に一か所に集まってる。てっきりS級冒険者のシンシアが隠し持ってるとばかり思っていたがそうではなかった。
幼女大統領の話をまとめるに、俺のレンタル道具はこの国で全て回収出来るってわけだ。
それが済めば、遠いこの地まで来た俺のレクチャー旅は終わることになる。慕ってついてきた彼女たちを自由にしてやれるし、俺は王都に帰ってまたのんびり出来るってもんだ。
「そういうことなら、引き受ける! 俺の旅の目的は、レンタルした道具の説明も聞かずに借りて行った者たちにレクチャーすることだからな。他国や大地に迷惑をかける奴らを生み出す為じゃない」
今度はもっと厳しく教えてから貸し出さないと面倒なことになるだろうからな。
「よく言った!! ではアクセル。この場にいる聖女か賢者、どちらを選ぶ?」
アルゾス大統領がそう言った直後、さっきまで俺のそばにいたリミアとアルマが目の前に立ち、俺に選ばれるのを待つかのような姿勢を取っている。
「……何の真似だ?」
俺を信じたかと思いきや、かなりの曲者だなこの幼女は。
「余はアクセルの言葉を信じておる。じゃが、これからレクチャーしてもらう冒険者どもは一癖も二癖もある厄介な連中。そんな連中相手にお主だけで解決出来るとは思えないのじゃ。じゃが、聖女と賢者のどちらかを補佐とすればそれほど苦労することなく事を済ませることが出来るはずなのじゃ。さぁ、どちらを選ぶ?」
聖女アルマと賢者リミアか。
聖女の方は言葉遣いを置いといても、これまでそれなりに動いてくれたんだよな。しかし俺の中ではまだ完全に信用出来ない部分がある。
対するリミアは鉱山都市で助けて以降、特に目立った動きもなくただ単に寝かせてしまっているだけにとどまる。
戦いになった場合動かしやすいのは聖女だが、俺を慕っているのとはちょっと違うし裏切る要素もあるのが厄介なところだ。
――となれば。
「リミアを選ぶ。俺は道具を駆使するレンタル屋だが、聖女を頼るほど戦闘に長けてないからな!」
俺の選択にリミアは猫耳をピンと立たせ、尻尾をぶんぶんと回して嬉しそう。選ばれなかったアルマは、想定でもしていたかのように俺を見ながら鼻で笑っている。
「決まりじゃな。ではアルマ。アクセルとリミアを闘技場へ案内せよ」
「分かりました」
「闘技場? おい、俺は戦わないぞ?」
聖女と賢者の違いに関係なく、結局は戦わせるつもりだったんじゃないのか?
「お主に戦う意思が無くても、連中が素直に言うことを聞いてくれるとは限らないぞ? それくらい、血の気が荒い連中が集まっているという意味でもあるのじゃ。闘技場に招待するわけじゃないからそう怒るな」
「……なるほど。理解した」
「まぁ、最悪の場合はダークエルフを呼ぶことも可能じゃが、呼ばないように頑張るんじゃな」
――聖女の国というのもそうだが、俺とその荒くれ冒険者どもをこの国に集めるあたり、あまりいい趣味とは言えないな。
「アクセル様ならきっと大丈夫にぁ!」
「だといいが」
そうして、アルマの案内で俺とリミアは地下に広がる闘技場へと着いた。
「わぁ~! たくさんいるにぁ~。でもアクセル様が勝てない相手はいなさそうだにぅ。アクセル様の道具を使いこなしていたら、そもそも捕まっていないからにぁ」
「……それも賢者としての見解か?」
「ボクに出来るのはそれくらいだにぁ」
戦えないおっさんと戦えるわけがない猫獣人か。これはとんだお試しの場になりそうだな。
「ん? というか、何か見たことがある奴が混じってる気がするな。あいつ、どこかで会った気がするな……」
数にして、四、五十人ほど集められた冒険者の中に、俺がどこかで出会った顔が見えている。そいつも俺に気づいたようで、すぐに集団から抜け出して俺の元に近づこうとしているが、側近たちに止められて近づけない。
「アルマ。さっきの男は俺の道具で何をしでかした奴だ?」
「あんたに近づこうとした男? アレは確か……グラインダード峡谷の地形を変えていた男だな。捕らえた時は弱っていたが……知り合いか?」
「そうか、あいつはE級か! テレポートスクロールで峡谷に飛ばしてやった奴だが、地形を変えるほど悪い奴じゃなかったんだがな。そもそもE級にそんな真似など……」
「アクセル。奴は危険じゃないのか? お前を信じて解放することも可能だぞ」
全く、どこまで俺を試すつもりがあるんだ。
E級を信じるのは簡単だが、何らかの道具をまだ隠し持っている可能性もあるだろうし、どうしたものか。




