第30話 アルゾス共和国の使者 1
「バーネルのおじさんさぁ、わざわざこんなところまで来なくてもいいんじゃないの~? 道具の扱いなんて聞かなくたって使えば何とかなるものだし~」
俺に向かってくる冒険者は三人で、しかも女性のパーティー。とはいえ、俺の店を利用していながら全く話を聞かなかった者たちなので厄介なことに変わりはない。
「ふふん、これはエルフのムチ。道具屋のおっさんには悪いけど、ムチ攻撃は流石に避けられないでしょ!」
「あたしのは、スターハンマー! おっさんが説明なんかしなくても使える武器ってことくらい分かるし。武器なんだから、使えば何とかなる!」
……などなど、女冒険者たちはやたらと俺を挑発してくる。
挑発はしてくるが攻撃を仕掛けてくる気がないのか、とにかく道具を俺に見せびらかしているだけだ。
貸したのは俺なんだが。
エルフのムチを手にしている女性はエルフではなく人間で、実はエルフ以外が使うと最弱の武器と化す――という説明も聞いてない。つまり、たとえムチ攻撃されても俺がダメージを受けることはないことを意味する。
スターハンマーの場合、使い方は単純で星空の下で使えば星の力も相まってそこそこ使えるが、夜空に星が見えていなければただのハンマーに過ぎず槌の重さも結構なものとなる。
攻撃力もほとんど期待出来ず、女冒険者が扱うには厳しい。まして今の時間帯は夜なのに星が見えずじまいなので、残念な結果になることは目に見えている。
三人のうちの残り一人は俺に挑発せず様子を見ているだけのようで、全く動く気配がないが、それならそれでこちらからレクチャーしようと近づくが。
「おっ、聖女の盾か!」
動かずにいた女冒険者が手にしていたのは聖女の盾だった。
「……そうだ。あんたの店で借りた。何せ聖女と名がつく盾だ。あんたは自分が貸した盾にはね返されて無様に弾かれる! 今のうちに引いた方が身のため」
「随分と強気だな」
「他の二人みたいにあんたを煽ったところで結果は同じだから」
もっとも、この女性が手にする聖女の盾は攻撃を防ぐものではなくただのお土産品。俺の店では全て実践的とは限らず、名前だけが先行したものも数多い。
それこそ、店頭で説明を受けなければ見た目だけで騙されるものも数多くある。
「御託はいい! レンタル店のおっさんに恨みはないけど、あたしらもアライアンスパーティーを維持するために必要なことなんだ。大人しく攻撃を受け入れてもらうよ!」
「痛い目に遭わせるけど、ここまで追いかけてきたあんたが悪い!!」
二人の女冒険者は、ほぼ同時に攻撃を仕掛けてくる。
……だが、エルフのムチからは何のダメージを受けない。聖女の盾も同様で、盾を使って俺に突っ込んできたが、女冒険者が押す力だけでは俺はびくともせずその場から動かされることもなかった。
残りのスターハンマーは基本の攻撃力だけは流石にあるので、避けの体勢を取っていたのだが、どうやら振り下ろすどころか持ち上げる体力が無かったようで、なかなか攻撃が出来ずにいるようだ。
「お、重い~……」
スターハンマーを手にする女冒険者は、足をふらつかせながら必死に持ち上げようとするが、やはり星の力が得られない状態なので攻撃することもままならない。
「スターハンマーは夜空が出ている時だけ、効果を発揮する武器だ。星が見えてさえいれば、腕の力など借りずに持ち上げることは出来たかもしれないが……」
「え~!? そんなの、早く教えてよ~」
「店でレクチャーしようとしたが?」
全く、ほとんどの冒険者がこういう状況になっているのはどうなんだ?
「……うぅぅ~もう無理!!」
「ひ、退くよ!!」
「無理ぃ~」
などなど、エルフのムチ、聖女の盾も全く使い物にならないことに気づいた三人は、それらの道具をこの場に置いてアライアンスパーティーが集まっているテントへと逃げていった。
やれやれ、仮にもお金を使って借りた道具だろうに。粗末な扱いをするとはな。
「アクセル! ちょっといい?」
三人の女冒険者がこの場からいなくなったので、シャンテたちの様子を確かめようと目を向けようとすると、後方にいた聖女アルマから声がかかる。
アルマがいるところに目をやると、そこには白装束を身に纏う見知らぬ男の姿があった。
「アルマ。その者は?」
「彼はアルゾス共和国の使者」
アルマに紹介された男は、俺に頭を下げる。
……使者と言ってるが、かなり実力がありそうな男だ。
こんな戦場にいきなり使者が来ているのはただごとじゃないと思われるが。使者の男からは取り乱したような様子は見られない。
「アクセル。ここの戦いを終えたら、アルゾスに向かってくれない?」
「なぜだ?」
「詳しくは国に着いてからになるけど、救援依頼がきたの」
救援依頼か。レンタル道具屋の俺に救援を求められてもって話になるが。
「……俺ではなく、そこの冒険者たちでは駄目なのか?」
「アクセルの道具じゃなければ厳しいって話だから、だから……」
「あぁ、なるほどな」
俺の道具を手にした迷惑な連中を一掃するには、俺がやらないと駄目な話なわけだ。
「砦から来ているボスと冒険者たちはあくまで、ここのアライアンスパーティーを抑えるための要員。他国でのことまでは介入出来ない――そういうことだろ?」
「そういうこと」
ここでの俺の強さは見せつけられたことだ。後はボスたちだけで解決させればここに留まる意味はなくなるが。
「それなら、使者のあんたに頼みがある。ここにいる連中を一掃出来るか? 砦に近づかせない程度でいいんだが」
使者の男は表情を動かさないが、アルマの許可が下りたのか俺に頷いてみせた。
「行ってくれるんだな?」
「……御意」
初めて声を出した使者は、すぐにこの場を離れテントに向かって駆けだしていた。
「強そうな男だな」
「当然! 彼はアルゾス共和国の戦士なんだぜ? 弱いわけがない!」
聖女がいる国なのに戦士なのか。
それなのに俺に救援依頼って、おかしくないか?




