第11話 クレア・パルーデ王女からの期待の眼差し
お~お~騒いでる騒いでる。
だが上手くいったようだ。魔法を唱えられるほどの魔力を持たない俺にとって、本物の魔法を使う奴の攻撃なんざ防ぐ手立てなんかありはしないからな。
じゃあ何をしたかというと。
「……やってくれたわね! まさかわたしがあげた魔法の書を使って発動を取り消しにするだなんて、なんてひん曲がった性格なの! あなたのせいで無駄に疲れたんだけど!!」
パルーデの王女から頂いた魔法の書の効果は単純なもので、それを唱えるだけで魔法発動効果をすぐに打ち消すことが出来る。その結果、魔法を発動した相手は無駄な魔力を使ったことにすぐに気づくうえ、発動出来なかった反動で疲労困憊状態に陥り、発動したことを後悔する――という優れた道具だ。
そうすることで一定時間魔法による攻撃は出来なくなるし、魔法攻撃を発動しようものなら相当な時間を要するという間抜けなものとなってしまう。魔法が使えない俺の為に作ってくれた特別なものだったが、俺が冒険者パーティーから抜けるまで一度も使うことが無かった魔法の書だ。
しかもこの魔法の書は俺専用なので半永久的に無くなることがない。現状の旅においてこれを使う機会などないと思っていたが、王女がくれたものを王女相手に使うことになるとは思わなかった。
「そりゃ、お互い様だ」
「ムカつくムカつくムカつく!! あなたなんかに作ってあげるんじゃなかったわ!」
「はははっ、今さら返せと言ったって遅いぞ」
パルーデ王国のクレア王女は、弱そうな俺が可哀そうだからと出会った時から俺を密かに気に入り、その縁で魔法の書を作ってくれたわけだがこうして使われたのは屈辱的だろう。
「本当に相変わらずのクソガキっぷり……あらっ? しばらく会わないうちにあなた、老けたわね……二百年ぶりくらいだから?」
人間と比べる方がどうかしてる。
「アホか!! 俺はまだ四十歳になりたてだ! 初めて会った時は二十に満たなかっただろうが! それに、あんたらと違って純粋な人間は年を食うものだ!」
「はんっ、全然ひよっこじゃない! ひよっこのくせにわたしへの敬いがまるで足りないわね」
本来、王女に対する言葉遣いは細心の注意を払う必要があるのだが、初めて出会った時からこの王女さんは、俺にだけ心を許しわがままを通してきた。
他の冒険者メンバーは戦いに明け暮れて外に出たりしていたが、俺は王女の話相手になって愚痴やら何やらを聞いていた。そのせいで友人のような関係になって今に至っている。
何せ王女の謁見を許された時、初対面でいきなり魔法をぶっ放されて怪我を負って寝込んでしまったからな。それ以来、非力な俺には手加減をしなければという気持ちが芽生えたに違いない。
「……で、ひよっこアクセルがわたしの何の用?」
クレア・パルーデ王女はハーフエルフだが、人間の要素が強いせいかシャンテと違って丸い耳の形状をしている。
元々魔法力に長けていた一族だったようで、人里から離れて過ごすのに適した沼地に王国を築き、ここで暮らすようになった。
「用というか、その……クレア。すまん!」
魔法使いに何を言ったところで許してくれないだろうから、その前に頭を下げるのみだ。
「な、何よ?」
「実は俺の店で道具を借りた冒険者のせいで……」
沼に投げ入れた武器の話だったが、クレアはそれとは違う話を始める。
「……その話ならかなり前に来た偉そうな女冒険者から聞いたわ。あなたの店から借りた武器や魔道具を使い、魔物を刺激して国を落とそうとする輩がいるって話よね?」
「な、なに? そんな奴らまでが現れてるのか?」
そうなると単なるレンタル道具屋の俺の立場がとんでもなくヤバい方向になるのでは?
「まぁ、今はどうでもいいわ。後でたっぷりと聞いてあげるし助けてあげるから。それよりあなたには分からないでしょうけれど、この街は浄化魔法をかけている最中なの。どこかのふざけた冒険者が毒付きの武器を沼に投げ入れたことで水が汚染されて大変なのよ!」
あああ……すまん、それも俺関係だ。
流石に俺のせいだとも言いづらいが、どうしたものか。
「水の汚染か。ああ、そういやシャンテ……俺の助手が噴水の水を汲みに行っているが、噴水の水も危ないのか?」
「はぁ? 助手? どこの誰があなたの助手なの?」
「ダークヘイムで出会ったダークエルフ娘だ。彼女の強さなら平気だろうと向かわせたんだが……」
毒による汚染水を浄化中なら、噴水の水も問題ないと思うのだが。
「ダークエルフの娘? ふん、それなら何も起きないわね」
「なぜだ?」
「あなたも少しは知ってると思うけど、ダークヘイムは過酷な環境下にある町なの。常に暗闇だし空気は汚れているし、毒泉があるし……そういう環境の娘なら、毒性のあるものなんか何の効果もないわね」
――ということは、眠り草の毒性効果もかき消している? 衰弱してるように見えたのは気のせいだったのでは?
「まぁ、噴水の水を汲んでいるくらいなら何の問題もないでしょ」
「それならいいんだ」
たとえシャンテに毒が効かなかったとしても、俺を慕ってついてきてるわけだし気にすることではないな。
「ところで、あなた。どうやってダークエルフを従えたの? あなたお得意の道具でも使った?」
……ん?
なぜそんなことを訊くんだ?
「俺がダークエルフを従えたことに何の問題があるんだ?」
「ハーフエルフの私ですら頑固なのに、ダークエルフなんて普通は非力な人間なんかに付き従うなんてありえないことなの! ねぇ、どうやったの? もしかしてあなたの無限に出てくる道具の中に、従えさせる道具でもあるの? 凄く興味があるんだけど!」
「そんなものはないぞ」
何だかキナ臭い話になってきてるんだが。
「……城の中で退屈してるわたしを外に連れて行ける道具があるなら、あなたの為に何でもやるわ! そうね、態度を改めてあなたを称えて名声を高めてあげる! さぁ、わたしをお城から連れ出せる道具を使ってちょうだい!!」
何でそんな話になったんだ、これ。




