適性調査
それから、ルピアは魔法を学ぶのが楽しみで、浮き足立つ感覚に苦悩しながら一生懸命に授業を受けた。
そうしてようやく、待ち望んだ魔法の授業の時間が訪れる。
今日は、適性調査をしていない生徒に適性調査を行い、それから教師による実演とともに座学をするらしい。
適性調査というのは、要するにどんな属性の魔法に適性があるのか調べるものである。
魔法には火、水、風、地、の一般的な四属性に加え、希少な光、闇の二属性が存在している。
魔法は各属性の基礎的な魔法は誰でも扱うことができるが、適性がある属性しか魔法を発展させることはできず、またその適性は、基本的には一人につき一属性のみ。
百人に一人くらいの割合で、二属性の適性を持つ人物もいる――フィレウスもその一人である。
「ふう……」
『みつちゃん……緊張、してる? ……が、がんばれー……!』
ゆっくりと息を吐き出すルピアに、アルテは戸惑いつつもエールを送る。
そんなアルテにルピアはふっと微笑み、こっそりと、浅く頷いた。
公爵家の一人娘でありながら、ルピアはそういったものを受けてこなかった。
ある程度の爵位を持つ家にとって、幼い頃に適性調査をしておくことは当然のことである。
そうして、質のいい教師を用意し、幼い頃から魔法を学ばせるのだ。
だがルピアは、どれだけやらせてほしいと言っても、適性調査を受けさせてもらえなかった。
きっと何か理由があるのだろうと、そう思える頑なさだった。
けれど、学園に来た今、それを受けない選択肢は無い。
ルピアは席に座って、じっと自分の番を待つ。
適性調査を受けていない人は少なく、もう間もなくルピアの番は訪れるだろう。
そわそわしているルピアに、フィレウスとリリスが心配そうな眼差しを向けていた。
やがて、ルピアの番が来る。
名前を呼ばれ、ルピアは立ち上がると教壇の方へと向かい、そこに置かれている大きめの布、そこに刻まれた魔法陣へと手を翳す。
すると、魔法陣が目を開けていられないほどに光り輝き始め、ルピアは片手で目を覆った。
これまでは、こんな眩しくはなかったはずだ。
他の人が適性調査を受けていた間、ルピアはもちろん、適性調査を受けていた本人も、ここまで眩しそうにはしていなかったはず。
純白の光が教室内を染め上げ、それが落ち着いてから、ルピアはそっと目を覆っていた手を下ろした。
『……あ……』
言葉を発したのは、ルピアではなくアルテだった。
ルピアの内側だけに響く声が、真っ先にそれを把握する。
ルピアが、適性調査をさせてもらえなかった、その理由を。
クラスメイトたちの視線が、畏敬のそれへと変わる。
それだけではない――リリスだって、教師だって、そうだった。
唯一変わらなかったのは、フィレウスだけ。
あの眩い純白の光は、ルピアの才能を示すもの。
きっと公爵は、こうなるとわかっていたから適性調査をさせなかったのだ。
これほどの才能の持ち主を、国が放っておくわけがない。
幼い頃に適性調査をしていれば、学園に入学することすらなかったのかもしれない。
ルピアはクラスメイトたちを見回し、その視線を確かめる。
誰もが、もうこれまで通りには接してくれそうになかった。
純粋な憧れに留まらず、その視線は畏敬の域まで達している。
鈍いルピアでもわかるほど、はっきりと。
「……先生。この、白い光は……」
どこか茫然としながらルピアが口を開けば、クレイスは軽く肩を震わせた。
数秒の沈黙の後、彼は幾らかの冷静さを取り戻し、だが震えた声で言う。
「……アルベリアさん……その、白い光は……光属性由来のもの。……そして……その光の強さは……」
ルピアの目を見てか、クレイスはその先を口にすることを躊躇った。
だからルピアは一つ息を吐いて、代わりにそれを口にする。
「私の才能の表れ……ですね?」
「……はい」
その言葉に、クレイスは頷くしかなかった。
この状況が、それを物語っていて、否定したところで何の意味もないだろうから。
ルピアは再び息を吐き出し、クラスメイトを見た後席へと戻っていく。
フィレウスの隣に腰掛ければ、フィレウスはひっそりとルピアに声を掛けてきた。
「……ルピア……大丈夫かい……?」
「……はい。ですが、後でお話があります。後ほど、お時間いただけますか?」
「……ああ……もちろんだよ」
頷くフィレウスにルピアはほっと息を吐き出し、改めて正面を向いた。
依然として教室内は妙な雰囲気に包まれているが、クレイスはぎこちないながらも授業を再開する。
『……みつちゃん、大丈夫? えっと……わ、わたし、その……魔法のこととか、よくわからないけど……みつちゃんは、みつちゃんだよ……! 大丈夫、大丈夫だから……』
ルピアが黙り込んでから、アルテはどうすればいいのかわからないながらも一生懸命にルピアを励ました。
この日ほど自分に肉体が無いことを恨んだことはない、というくらいにアルテは自分の現状を悔しく思いつつ、必死に言葉でルピアに寄り添う。
ルピアは友達を作ることを半ば諦めてもいたが、それでも友達を作ろうと頑張っていた。
実際、その成果はあって、数人ではあれど友人はできていたのだ。
それなのに、憧れだった魔法によってそれが無に帰して、その心情はアルテには計り知ることができない。
『……みつちゃん……わたしがいるよ。わたしは、みつちゃんがすごい人でも……見方を変えたり、しない。……みつちゃんは、すごい人なんかじゃないもん。抜けてるところがたくさんある、かわいい人だもん……みつちゃんは、どこにでもいる子なの……』
ルピアは必死なアルテに内心で微笑み、そっと胸に手を当てて大丈夫、と伝えて、アルテを安心させてから授業に集中し始めた。




