雪山で人を探していて逆に助けられたと思ったら、もう帰れないだと!?
第5回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞への参加作品です。
横殴りの吹雪は、俺の意識を奪おうとしていた。
年中吹雪いて人を食らうこの山は、魔の山と呼ばれていた。
訪れた街のギルドで「仲間の魔法使いが魔の山に入ってしまったので捜索して欲しい」という依頼を受けた。炎魔法が使える俺は、報酬に惹かれて山に入ったが、甘かった。途中で魔力が尽きた。引き返す体力もない。
「おーい」
少年のような声が聞こえた。幻聴か。だが、その声は俺を導くように、ある方角から聞こえてくる。
声のほうへ歩くと、洞窟があった。入口に人影が見える。
俺は、洞窟に転がり込んだ。
「どうしてこんなところに来たんだ」
声の主は、俺を責めた。
腰に両手を当てた人物がいた。膝丈のローブ、大きな鞄を肩から提げているなど、典型的な魔法使いの格好だ。身長は俺よりも低く、中性的な顔付きをしている。捜索対象の人物だ。
「ルートさんですか。捜索の依頼を受けて」
「捜索!?」ルートは、俺の言葉を遮る。「ちゃんと言ったのに。悪いけど、帰ってくれないかな」
予想外の返事に、俺は戸惑う。ルートは続けた。
「この山に、ボクの故郷があってね」
ルートが言うには、里帰りの途中に、この洞窟で休憩していたところらしい。
「帰れと言われても困る。ヘトヘトなんだ」
「じゃあ、どうやってボクを連れ帰るつもりだったの?」
痛いところを突かれて、俺は黙るしかなかった。それにしても寒い。
「回復アイテムもないし、仕方ない。一緒にいてあげるよ」
ルートはそう言うと、洞窟の入口に向かって、雪魔法で壁を作った。壁で風を防ぐだけで、ずいぶん暖かい。
ルートは、俺の隣に座ると、肩から提げた鞄に手を入れた。ランプを取り出し、魔法で炎を灯す。炎に照らされたルートの顔は、赤らんで見えた。
「これ、食べかけだけど、食べるかい?」
ルートは、鞄からパンを出した。俺はありがたく、半分にちぎれたパンをもらった。
夜が明けきらない頃、ルートは俺を起こした。ルートは、俺の手を握る。
「この間だけ吹雪が止むんだ。ボクの村に行こう」
なぜ一緒に向かうのかわからない俺に、ルートは微笑んだ。
「ボクの村ではね、凍えた人が食べかけの食べ物を食べてくれたら、結婚の証と言われてるんだ」
魔の山で行方不明になった人が、雪に閉ざされた村で伴侶と過ごしていることを知ったのは、それから数時間後のことだった。