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第三十二話.二日酔いを治すためには

「……あたまがいたい、からだにちからがはいらん」


木の床に伏したままマヤが言った。フードを深くかぶり、暗がりに隠れるネコのようにまるまっている。


「なんで、ゆかでねているんだっけ」

「記憶喪失、敵の攻撃か?」

「また二日酔いだと思います」


キツネの問いかけにルシアは答えた。深夜遅くまで無限ビールを続けていたので、案の定ではある。


「うーん……」


マヤは両の手で頭を抑えてうずくまったままだ。寝ると二日酔いになるから、徹夜してそのまま起きていると二日酔いにはならないと豪語していたが、結果はこれだ。


「ルシアは無事か?」

「はい」


さすがに一度飲みすぎている。どこまでいったらアウトなのかは見極めたつもりだ。ふらふらしながら立ち上がったマヤが水を求めていたので、手渡した。そもそもこの村のビールが美味いのが悪い。などと文句を言いながらマヤはベッドに座って水を飲む。いつもサラサラな黒髪が、今日ばかりはくしゃっとしている。


「むかえざけしかない……酒場はなんじから?」

「薬、買ってきますね」


性懲りも無くビールを求めるマヤに返事を返さず、そう言って村の薬屋に向かった。最近気がついたが、彼女は金があったらあるだけ飲み代に使うタイプだ。そんな彼女が飲み放題券なんて手に入れたらどうなるかは、火を見るより明らかだった。


「この辺りだったかなー」


村の中心部から少し外れた古ぼけた店を訪ねる。ルシアは記憶力が良い。一度でも歩いた道は、目を閉じていても思い浮かべることができる。いつぞやに前を通ったことを思い出しながら歩いていると、記憶通りのボロ屋を見つけた。


「こんにちは!すみません!」


躊躇なくその扉を開ける。薄暗い店内は少し埃っぽい匂いが漂っている。隅の方には蜘蛛の巣があり、羽根の薄い虫がその罠に引っかかっていた。


「はーい」


ゴミかと思っていた木箱が積まれた一角から、可愛い声で返事が返ってきた。くりっとした瞳、茶色い獣耳に大きな尻尾をはやした少女である。黒い眼鏡をかけて、顔も真っ黒にしながら、慌てた様子でこちらに近づいてくる。獣の部分はそれらだけで、あとは人間のそれにちかい。リス人間というのが一番近いのかもしれない。


「半獣人」

「はい!珍しいですか?」

「いえ、そんなことは」


帝都ではたまに見かけることはある。田舎にはほとんど居ないと聞いていたので、珍しいのかもしれない。


「それで、何をお探しでしょうかお客さん!」


リスは厚ぼったい黒い眼鏡を指であげなおしながらそう言った。

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