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第二十七話.大蛇はどこだいじゃ?

集落の裏手にある洞穴。ぽっかりと口を開けた暗闇の入り口の前に三人は居た。この洞穴の奥に、大蛇は潜んでいるのだと言う話だ。


「深いですね」

「真っ暗だな」


ルシアの言葉に、キツネが頷きながらそう言った。これほど深い洞窟だと光も届かないから、カメラも意味をなさないだろう。穴の中にコツンと一つ小石を蹴り込むと、いくつか音を反響させたがすぐに静けさを取り戻してしまった。奥の方に行くにしたがって下っていく構造のようだ。


「いりぐちはここだけ?」

「空気穴は知らないけど、入り口になりそうなところはここだけだって。そもそも元々は村人に掘られた穴らしいよ」


そういえば酒場の主人がそんなことを言っていた。


「どうするかな。まつあきでも作るか」


キリッとした顔でキツネが言った。


「まつ……あき?」

「ああ。こんな暗い洞窟なら、まつあきくらい必要だろ?」

「ふっ」


マヤがなぜか一人で吹き出した。ルシアはちょっと話の流れについていけない。


「まつ、松明(たいまつ)?」

「oh……」

「キツネはかんじがにがて」


マヤの方が苦手そうな話し方だが、彼女はこれでいて学があるらしい。キツネは耳をぴくぴく動かしたあと、洞窟の奥をにらんだ。しばらくして振り返る。


「どうするかな。たいまつでも作るか?」

「つくれば」


何事もなかったかのようにキツネがはじめ、マヤがそれに返事をした。洞窟の少し前の開けた場所にマヤとルシアは陣取って、お茶を沸かすことにした。ティータイムだ。お茶菓子はマカロン、色とりどりで空気のように軽い。濃い目に入れた紅茶にもよく合う。その間にキツネは一人森に入っていき、せっせと松明らしい何かを作っていった。小一時間ほどするとお茶会も終わり、ちょうど松明が完成したようだ。


「できたぜ」

「おつかれ」


軽く息をきらしながら持ってきたお手製の松明をマヤがぱっと取り上げた。鞄から何やら乾いた草のようなものを取り出して、松明の先の部分に入れ込んだ。その後にマッチで火をつける。そのまま流れるような動作で、松明を魔法で複製し、燃え盛るそれらを一本二本と洞窟の奥に投げ込んでいく。


「あれ?」


思ってたのと違う。そんなすっとんきょうな声を出しながらもキツネは彼女の動きを黙って見守った。一体何を燃やしているのか、松明の先からドス黒い煙が上がっている。それを次々と洞窟の奥に投げ込んだ。しばらくすると、洞窟の入り口から山火事でも起こしたかのように煙がもうもうと出てきた。


「あの」

「なに?」


一仕事終わった、とそんな表情のマヤにルシアが声をかける。


「何を燃やしたのですか」

「爬虫類がのたうち回って裸踊りをする草」


えげつない毒草だった。


「うわあ……」


煙の勢いが弱くなってきたころ、洞穴の奥からずるずると這いずるような音が聞こえ始めた。みるみるうちにその音は大きくなり、にわかに何かが飛び出してきた。


「出たぞ!」


キツネが武器を構える。その後ろにマヤ、さらに後ろにルシアの隊列だ。さすがにジャーナリストのうしろに戦闘員が隠れるのは自粛してくれたようだ。


「でかい」


蛇だ。人間を一飲みしてしまいそうな大きなあぎと。黒っぽい大きな身体がものすごい勢いで抜けてでくるも、いつまでたっても全貌が見えてこない。異常に長大な胴体を持っている、まさに大蛇である。


「来るぞ!」


キツネそう言った瞬間、こちらに目掛けて一直線に向かってきた。大きな口を開けて、両の手を広げたほどもある牙を剥き出しにして。三人とも間一髪その突進を避ける。それが通った後は、立木さえも薙ぎ倒されてしまう。ミシッと音を立てて生きている木が目の前で折れた。ルシアがその瞬間をパシャリと一枚撮影する。


「あらよっと!」


いつのまにか木に登っていたキツネが、そこから飛び降りて、そのままの勢いで長剣を蛇の眉間に突き立てた。しかし分厚い鱗と、頭蓋に阻まれて刃が上手く通らない。ざりっと変な音を立てて剣先が滑る。


「シュッ!!」


蛇の頭の上で、くるりと宙返りをしながら二、三度切り込むも鱗の表面を少し削るだけにとどまった。大きさが違いすぎる。十メートル、二十メートルどころの話じゃない、まさに桁が違う大きさだ。


「あー無理かも」


言いかけたところに蛇の尻尾が一閃。横薙ぎに払われてキツネが頭の上から転落した。空中で一回転、足を下に着地しながら叫ぶ。


「マヤ!」


言い終わるのが早いか、キツネの尻尾が二つに増えた。

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