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第二話.冒険者といえば酒場だよね

「月白の葡萄亭。この人口密集地である帝都で、一番勢力のある盛場。そして最も安酒を呑ませる酒場。またの名を動物園……」


そう呟きながら、ルシアは当該の店のドアの前で仁王立ちしていた。


「うーん、ちょっと怖いなぁ」


さすがのルシアも少しだけ及び腰である。いつになく声が小さくなっている。


「でも一番冒険者が多いんだから、取材の許可が取れる可能性が一番高いのはやっぱりここだよね」


そう言いながら、覚悟を決めたようにルシアは静かに扉に手をかけた。なんの抵抗もなく、その扉はすんなりと彼女を受け入れる。

眼前に、未だかつてない光景が現れた。

孔雀の羽根のような煌びやかな色に光る室内に、所狭しと人間と動物が混在している。店の奥の厨房では二足歩行のカバがエプロンをつけて調理をしている真っ最中だ。小さなテーブルでは小人族が、大きなテーブルではライオンなんかが樽のような大きなジョッキを持って酒をあおっている。


「……おぉう」


ルシアは思わず声を出した。

人種のるつぼ、さまざまな者がさまざまな事情を抱えて集まっている。構成比としては人間種が一番多く半数を占めるが、その一方では二足歩行のサイや牛、リザードマンや小人までもが同じように名物女将の作った食事を楽しんでいる。ちなみに女将はカバ種である。4メートルほどもある体躯で、器用に巨大な中華鍋を振っている。ガシャガシャと大きな音を立てて作っているのは、人間が食べるには三十人前はありそうな炒飯だ。


「おい、お姉ちゃん。こっちに来いよ!」

「わっ」


ぼうっと立ちすくんでいるルシアに、リザードマンたちが声をかけた。乾燥してひび割れたウロコの皮膚が、服の間から覗いている。


「可愛いじゃん。こっちにきて俺らと一緒に飲もうぜ」


しわがれた声でそう言いながら、リザードマンの男は紫色の舌をチロチロ出した。荒くれ者の気配に思わず一歩下がると、奥からまた何者かが歩いて近寄ってくる。


「おい、クソ蛇野郎!怖がってんじゃねえかよ、下がってろ」

「なんだと?」


声の主はトラだ。大きな鋼でできた胸当てをつけた戦士らしいトラの大男。大いに酔っているんだろう、ふらりふらりと蛇行しながら近づいてくる。


「人間の嬢ちゃんが怖がってるだろうが、ほら爬虫類は消えろ。蛇は蛇同士で遊んでろって。この姉ちゃんは俺と一緒に飲むんだよ」

「横から出てきやがって、誰が蛇だ。蛇なんかと一緒にすんじゃあねえ!」


三人のリザードマンが立ち上がって、トラの男を囲んだ。トラの方も負けていない、男たちを睨み返している。一触即発、いつ殴り合いが起こってもおかしくない。


「あー……あの」


ルシアが何か言いかけた時、厨房から怒鳴り声が響いた。


「ほらほら、喧嘩するなら外でやんな!」


そう言いながら、大きな口を真っ赤に開いたカバが奥からでてきた。この店の女将さんだ。リザードマンよりも大きなトラ男、それよりもはるかに大きな巨体。荒くれ男らの首根っこを掴むと、そのまま店の外まで連れ出してしまった。


「で、お嬢ちゃん。ご注文は?」


カバの女将は改めて注文を聞いたのだった。

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